相思

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相思

 有希子はサラミのピザとシーフードのピザをオーブンで暖めると、一斗が待つリビングへ運んだ。 「どっちがいい?」 「半分ずつは?」  一斗の提案を受け入れ二種類のピザを取り分けると、再度キッチンに入り、冷蔵庫から出した炭酸飲料を一斗に渡した。 「いただきます」  両手を合わせる一斗に兄の面影を重ねた有希子は、ハイネケンの栓を抜いた。 「由紀子さん、それってビールじゃないですか?」  グリーンの瓶を見た一斗が、怪訝そうな顔で言った。 「ああ、これ兄貴が好きだったんだよ」 「そういうことじゃなくて……。送ってくれるって言ってたけど、飲んだら運転できないじゃないですか」 「そう思ったんだけど、また倒れたら心配だし、今夜は泊まっていけばって思って」 「泊まるって……」  顔を赤らめて動揺する一斗は可愛かった。だが、本当のところは夢にうなされる一斗を何とかしてあげたい。せめて目覚めたときにそばにいられたらと思う。 「でも着替えとか無いし」 「大丈夫、兄貴の下着の買い置きが残っているから。もちろん新品だよ」  抵抗する一斗を追い詰めるのは何だか楽しい。 「分かりました。じゃあ、自分はソファで寝ますから」 「残念でした。そこはアレンの定位置なんだ」  一斗に風呂に入ってもらっている間、着ていた服を洗濯機に放り込む。洗濯後は乾燥機を使っても構わないといっているので、今夜中には乾くだろう。 「冷蔵庫に入っているもの、適当に飲んで構わないからね」  ドライヤーを掛け終わった一斗に告げて、有希子も風呂に入る。浴室内は撥ねた泡なども綺麗に流されており、椅子は斜めに置かれ水気が残らないように配慮されていた。新しく出したボディタオルもきちんと洗ってから絞って吊るしてあり、有希子のボディブラシには触れた形跡もない。  恐らく気を遣ったのだろう、湯船に浸かった様子もなかった。 「湯船には入らなかったの?」  頭にタオルを巻いたままパジャマ代わりのスウェットを着て、化粧水をつけながら聞いた。 「お湯を汚したら悪いかなと思って……」  両親の育て方がうかがえた。 「気にすることないのに」 「いえ、自分が落ち着かないですから」  一斗は時計を気にしながら、処方されていると思われる二種類の目薬を差した。二種類の点眼間隔には指定があるらしい。 「まだ目薬は差しているんだ」 「はい。でも、毎日の目薬で目が見えるのなら安いものです。それより、女の人は大変ですね」  風呂上がりのスキンケアのことらしい。 「これでも少ない方かな、あとは美容液と乳液でおしまいだから。気を遣う子はフェイスパックとかもするしね」  スキンケアを終えた有希子は、タオルドライの髪にドライヤーをかけた。 「明日はどうしますか?」 「アレンを散歩させて、そのあとは兄貴の部屋を見てもらおうかな。事件に関するものは残っていないと思うけれど、一斗の目で見ればまた違うかもね。時間があれば、一斗が夢で見た場所を一緒に回ろうよ。何か思い出すかも知れないし、一人で行って倒れたりしても困るから。帰りは悪いけれど買い物に付き合ってくれると助かるな」 「分かりました。ところで、自分はどこで寝れば良いですか?」 「心配しなくても大丈夫よ。お客様を床で寝かせたりはしないから」  有希子はにっこりと笑って言った。    
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