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記憶の遡及
仁木のところに向かう途中までは、尾行を気にする必要はないだろう。まだGPS発信機は外していないのだ。一斗は特に意識せず高牧駅へ車を走らせた。
それよりも問題は駐車場か。おそらく昨日の今日で爆発物を仕掛けられるようなことはないと思うが、万が一ということがある。なるべく人目があり、防犯カメラの多い場所を探した。結局東口近くにあった、人通りが多く見晴らしも良いコインパーキングに駐車する。防犯カメラも出入り口付近だけでなく、駐車エリアをカバーするように設置されていた。大手警備会社のステッカーが貼られたカメラがダミーでなければ、車に細工される心配は少ないだろう。
有希子の自宅と同じように、車のドアやリアハッチ、ボンネットの目立たないところにセロテープを貼ると、二人並んで駅に向かった。絶対に格好良いからという有希子のリクエストで、一斗はサングラスを掛けたままだ。
「デート気分で気楽にいこうよ」
夢に出てきた場所を確認に行く緊張を和らげようと有希子が気を遣って腕を組んできたが、密着しすぎて別の意味で緊張しそうだ。
平日午後の高牧駅周辺は、近くの専門学校生やサラリーマンで賑わっている。人波を避けながら階段で二階デッキに上がり、駅構内に入るとコインロッカーの並ぶエリアに足を運んだ。
無意識に柱の影に隠れると、天井から監視している防犯カメラの位置を確認する。場所を少しずつ移動しながら、夢に出てきた場所の特定を試みた。
「何か気になることはあった?」
有希子が小声で聞いてきた。
「周りとの位置関係からして、この辺りが夢に出てきた場所ですね。コインロッカーと今自分たちがいる場所を写す監視カメラがあります。仁木さんの疑いが晴れれば、二年前に甲斐さんがカメラ画像の任意提出を求めたかは調べてくれると思うのですが……」
仁木は直接動けなくても、運が良ければ伝手を使って何とか出来るかもしれない。一斗は天井の監視カメラに貼られた識別番号を記憶した。
仁木にも説明しやすいし、念のため自分でも写真を撮っておこうとコインロッカーに向けてスマートフォンを構えた直後、不意に過去にも写真を撮っていることを直感した。同時に記憶が弾け、かつて通行人を装って隠し撮りをしてた甲斐と同期していくのが分かる。
今回は頭痛は起きず、変わりに感覚が研ぎ澄まされていき、周囲を俯瞰したように見える。
瞬間的に二人の尾行者を認識した。スマートフォンを反射的に動画モードに切り替えると、有希子と組んだ腕の隙間から、歩きながら背後を隠し撮りする。あとで仁木に画像を見せ、知った顔がいるか確認してもらうつもりだった。
「どうしたの、急に?」
「尾行されているので、どんな奴か動画で撮影しています。後ろを振り返らずこのまま自分と一緒に歩いてください。出来ればデートの続きみたいにリラックスして」
有希子の耳元で囁いた。
「分かった」
有希子がさらに密着してきた。
尾行しているのが県警本部なのか、甲斐を殺し仁木を狙った連中か分からないまま行動するのは危険かもしれない。今日はDメッセは諦め、尾行を撒いて仁木のところに向かった方が良いだろう。
一斗は今朝調べた高牧駅内の店舗配置と改札口を思い浮かべた。
「Dメッセは別の日にしましょう。遅くなりましたがどこかでお昼を食べたら、尾行を撒いて仁木さんのところに向かいたいのですが、それで構いませんか?」
有希子に確認した。
「一斗に任せるよ」
一斗と有希子は構内のハンバーガーショップに入ると、壁を背にして外が見渡せる席を確保する。いきなり背中から刺されたりするのは避けたかった。
「東口側の角に、割りと派手目なランジェリーショップがあります」
一斗は食べながら、小声でこの後のプランの説明を始めた。
「尾行はおそらく男が二人、ランジェリーショップに入る勇気はないでしょうし、じろじろ見るのも気がひけるでしょう。まあ自分も、有希子さんがいるからといって気軽に入れるわけではありませんが」
「私に似合うのを選んでくれる?脱がせたいのでも良いけど」
緊張を紛らわせるためか、有希子は冗談を言った。
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