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「オンラインストレージサービスなんていくらでもあるから、まずは甲斐が契約していたところの特定からか」
この作業が一番難しいかもしれない。警察に知られたらIT捜査の専門部門が乗り込んできて、他人名義のストレージを片っ端から洗っていくだろうから、簡単には突き止められないはずだ。
「それがわかったら、今度はログインIDとパスワードですね」
こちらも簡単ではないが、全く無関係で不規則なものやワンタイムパスワードでは、味方でもアクセスできないから無意味だ。必ず関連情報を残しているだろう。
「俺は甲斐の性格をよく知っている。隠し物をするなら、変に凝ったりせず単純な方法を取るはずだ。見つかっては困るものを見つけてもらわなければならない矛盾をはらんでいるのだから、単純かつ意外な方法だろう」
「ちなみに、甲斐さんと最後に会ったり話したのはいつ頃ですか?」
「事件の三ヶ月くらい前だな。何年か振りに高牧署に戻ったからって飲んだのが最後だ。その時は何も言っていなかったから、有希子の方が可能性は高いかな」
仁木は有希子に振った。
「兄貴の物はほとんど警察に持っていかれて残っていないよ。そもそも家では仕事のことは話さなかったから、隠し場所とか言われても見当が付かないな。それに、嫌でも記憶は薄れていっちゃうんだ。楽しかった思い出で気持ちを埋めないと、毎日悲しすぎるから」
有希子は寂しそうに下を向いて、一斗に寄りかかってきた。
「記憶なら、薄くなるどころか今でも触れることができるんじゃないか?」
仁木の視線が一斗に向いた。
「絶対だめ! 一斗は何度も倒れているんだよ。次に倒れた時、目覚める保証だって無いんだ。無理矢理記憶を呼び起こすような真似はさせないからね!」
仁木の意図を見抜き、一斗を庇うように有希子が抱き抱えた。
「ありがとう。でも大丈夫、自分は何回倒れても、必ず有希子さんのところに戻ります。それに有希子さんや甲斐さんを悲しませた連中を許すつもりは無いし、彼らも自分たちを放っておいてくれるはずはありません。結局、事件を解決するまでは甲斐さんの記憶と共存していくしかないと思うんです」
心配してくれる有希子の目を見て言った。
「決まりだな。まあ実際問題として、そんな都合よく甲斐の記憶に触れることは難しいだろうから、現実面から攻めるしかないか」
「そもですが、甲斐さんが調べていたことやその証拠って、仁木さんから見てどんなものだと思いますか?」
「後藤のところも噛んでいたようだし、拳銃押収に関係しているのは間違いない。ノルマが極端にきつくなったのは二十年くらい前からだが、それから何十年かそこらしたら、部署別はともかく全体としては数字を上げていたらしい。普段から裏取り引きをしていた俺が言うのもなんだが、組織的な不正行為があったのだと思う」
県警本部と所轄組がそれぞれ別々に一斗たちを追っていたのは、警察という組織ぐるみの犯行だったからか。
「甲斐さんはその証拠を掴んでいたと?」
「そう考えると辻褄が合う。お前の記憶が戻って真相が明らかになれば、県警は信用失墜なんてものじゃ済まない。まして不正に手を染めていた連中は全員懲戒免職の上で逮捕、三人死んでいるから直接関与した奴は間違いなく死刑だ。恐らく警察庁長官の首も飛ぶ」
一斗は自分がまだ殺されていない理由が分かった気がした。たとえ自分の記憶が戻り殺されても、甲斐の残した証拠が出てくれば意味がなくなる。甲斐が残したのは、彼自身だけでなく一斗の命に対する保険でもあったのだ。
「今のところは県警レベルで動いているだけだろう。監察も、関東管区警察局や警察庁に報告できるような案件じゃないからな。できれば内々で済ませたいはずだ。誰が一番早く証拠を手にするかの勝負になる。手を下した関係者は命がかかっているから本気で来るぞ」
命がかかっているのは一斗も一緒だ。県警にとって一番の筋書きは、証拠を手にした一斗らが殺されたところで、関係者を証拠共々内密に処分することだろう。証拠を手にするだけでは命の担保にはならず、どう使うかで生死が決まる。
一斗が持っている唯一のアドバンテージは甲斐の瞳。優秀な刑事の記憶が一斗を導いてくれると信じていた。
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