接触

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 マキの邪魔をしないよう乗ってきた車の横で待っていると、程無くして白いクラウンが一斗の横で止まった。  チンピラヤクザの看板を掲げたような、一斗とさほど年が変わらない二人が乗っている。派手な刺繍の入ったジャージを着たチンピラが助手席から降り、顔が付くくらい一斗に近づいて睨付けてきた。威嚇のつもりだろうが、仁木の威圧感に比べたら大人と子供くらいの差がある。 「助手席に乗んな。てめえの車は俺が乗っていくから鍵を寄越せ」  頷いた一斗は、家の鍵を外してから渡すと助手席に乗り込んだ。こちらの心情を悟られないよう無言を貫き、甲斐のサングラスも外さない。このサングラスを掛けていると、甲斐が付いていてくれるようで心強い。 「真田(さなだ)の兄貴が事務所で待ってる。貴重な時間を割いてやってんだ、与太話なら殺して埋めるからな」  真田と言うのが坊主頭の名前らしい。脅し文句には手慣れた感があるドライバーに頷き、初めて口を開いた。 「わかってますよ。自分の命がかかってるんだから、こっちもそれなりの覚悟で来ています」 「ふん。そうやって余裕ぶっこいていられるのも今のうちだからな」  ドライバーは乱暴に発進させると、タバコに火をつけた。煙を嫌った一斗はサイドウィンドウを僅かに開ける。 「チッ」  ドライバーが舌打ちをして一斗を睨んできたが、それ以上は何もしてこない。おそらく連れてくるまでは、余計なことをしないよう言われているのだろう。  十分ほど気まずい時間を過ごすと、ドライバーは五階建ての古い雑居ビルの前に車を停めた。一階はキャバクラ、二階以上はサラ金や風俗店が入居している。  二人のチンピラに挟まれるようにタバコ臭いエレベーターに乗ると、五階のボタンが押された。  五階のフロアには監視カメラが多数設置されており、カチコミを警戒してか非常口扉には補助錠が追加されている。当然外の非常階段にもカメラが設置されているはずだ。 「連れてきました」  インターホンに向かって話すと、真上からカメラが見張っている分厚いスチール製の扉が開き、年嵩の組員が扉を開けた。 「さっさと入れよ」  一斗を連れてきた二人に押し込まれると、扉が重い音をたてて閉じられる。  ここからが勝負だ。一斗は呼吸を整えるとそれとなく室内を観察した。奥の壁には神棚が設置してあり、歴代組長や上部団体の幹部との写真が額に飾られている。両袖のデスクに座るオールバックの肥満体がこの部屋でのトップだろう。その横にある皮張りのソファに並ぶ三人は、スキンヘッドにパンチパーマ、そして坊主頭の真田。 「今日はお時間を頂きありがとうございます」  一斗はサングラスを外してそれぞれに頭を下げた。こちらからトラブルを起こすような言動は避けたい。 「こいつのボディチェックは済ませたんだろうな?」  一斗を無視するように、デスクのオールバックがチンピラ二人を問いただした。 「申し訳ございません!これから……」九十度近く腰を曲げ頭を下げる二人が言いきらないうちに、スキンヘッドが怒鳴り付けた。 「てめえらは馬鹿か!こいつがカチコミに来た鉄砲玉だったらどうすんだコラ!」  スキンヘッドとパンチパーマが立ち上がると、二人の腹に蹴りを入れた。 「組長(オヤジ)殺された(とられた)ばかりだろうが!若頭(カシラ)に何かあったらどうすんだ!おい!」  倒れこんだ二人を蹴り続けながら怒鳴る。十分近く暴行されている二人を最初は呆然と見ていた一斗だが、これは自分にのだと気づいた。下手なことをすると、今度はお前がこうなるぞという脅し。これがヤクザのやり口なのだろう。最初に恐怖を植え付けて、自分達のペースに持ち込むのだ。 「この馬鹿どもを連れていけ!目障りでしょうがねえ!」  スキンヘッドが怒鳴ると、年嵩の組員が奥の部屋に血まみれの二人を連れていった。 「見苦しいところを見せちまってすまねえな、兄ちゃん」 「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けして申し訳ございません」  何と返していいかわからないので、デスクに腰を下ろした若頭に謝罪をした。 「兄ちゃんみたいな素人が鉄砲玉とは思ってねえが、一応ボディチェックをさせてもらうぞ」  真田が近寄ってきて、一斗のポケットを探る。財布やスマートフォンなどと共に淑華の名刺を手に取った。顔色を変えると、名刺を若頭に渡した。 「なんだ?」  受け取った名刺を見て、若頭の顔に緊張が走る。 「兄ちゃん、楊家の世話になってるのか?」 「はい、淑華さんにですが」 「念のため確認取らせてもらうぞ」 「どうぞ」 「悪かったな。座ってくれ」  どんな脅しをかけたのか分からないが、淑華の威光は絶大だったようだ。スキンヘッドとパンチパーマが席を立ち、一斗の前に座るのは若頭と真田の二人、態度が一変している。 「それで、俺たちに何を聞きたいんだ?兄ちゃんもオヤジを殺った連中に狙われているらしいが?」 「後藤組長が殺される直前、警察の動きを気にして暴対の仁木警部と電話をしていたのはご存じですか?」 「ああ、仁木がオヤジを殺ったことになっているが、さすがにそれを信じるほどお人好しじゃないがな」 「後藤組長が最後に言っていた言葉がアイコウでした。それが何なのか教えて頂けますか」  アイコウと聞いて二人の顔色が変わった。  
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