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「今日はアレンと一緒に寝てもいいですか?」
「何かあったの?」
アレンに焼き餅を焼くわけではないが、一斗と一緒に住むようになってから初めてのことだけに、気にはなった。
「今日の昼間に甲斐さんの部屋で調べものをしていたら、アレンが入ってきたんです。もしかしたら甲斐さんが戻ってきたと期待していたみたいで、自分を見てすごく寂しそうに尻尾を振ってました。それを見たら可哀想になっちゃって……」
一斗らしいな、有希子は改めて思った。どこまでも優しい。
そもそもの出会いからしてそうだった。関係者全員死亡したためか不起訴になっていたとはいえ、事件当時の報道で兄は加害者扱いだったのに、たまたま巻き込まれた被害者の一斗は回復後にお線香を上げに来てくれた。しかも一時は心肺停止状態で、失明寸前だったのだ。
兄の角膜移植で失明はまぬがれたとはいえ、当時の一斗はそれを知らなかった。記憶を取り戻すためという理由はあったにせよ、自分だけ生き残ったから亡くなった方にお線香を上げたいという、純粋な気持ちだったと思う。
「わかった。今夜はアレンに貸してあげる」
一斗が負担に思わないよう、冗談めかして言った。
リビングに一斗を残し、一人ベッドに潜り込んだ有希子はナイトスタンドを消して目を閉じた。
一人で眠るのは慣れていると思っていたが、一斗と過ごしたわずかな日々は、確実に有希子を変えていた。シングルベッドがやけに広く感じ、なかなか寝つけない。
職場に入ってくる後輩にも、一斗と変わらない年頃の男の子はいる。だが、五~六歳年下の彼らに恋愛感情を抱いたことはない。
しかし一斗は別だった。優しく聡明で、母性本能をくすぐる繊細さ。そして時折見せる無謀とも言える行動力。いつの間にか精悍さを増している一斗にどうしようもなく惹かれているのを、一人のベッドで思い知らされている。
小一時間ベッドの上でごろごろと体勢を変えていたが、目は冴える一方だった。
もう無理だ。有希子は諦めて毛布を持ってリビングへ向かった。
「どうしたんです?」
アレンと寄り添って横になっている一斗が起き上がる。
「優しさが罪だと思っていない彼氏がいなくて、眠れなくなっちゃった」
有希子はアレンを挟んで一斗と並ぶ。固いフローリングの床は快適とは言いがたかったが、一人で眠るベッドよりは遥かにましだった。
アレンにぶつからないよう伸ばした手と絡めた脚で一斗と繋がり、有希子はようやく眠りに就いた。
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