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プロローグ
群馬県高牧市。国立高牧総合医療センター、救急救命室。
「高牧市南部方面救急隊から緊急の受け入れ要請です! 高牧市の総合施設Dメッセで爆発と銃撃があり、負傷者多数!何人か受け入れて欲しいそうです!」
救急救命直通の専用電話を受理している看護師の声に、数名の救命医が顔を見合わせる。現在処置中の患者が二名。応急処置の済んだ一名は通常の処置室に移動できる。残り一名は若手の医師で対応可能だとしても、生死の境にいる患者なら医師の人数から考えて受け入れは二名が限度。それも特殊な専門医が被らなければの話だ。
「二人が限度だが、変わりにトリアージ最優先二名の患者を受け入れる!怪我の状態も聞いておけ!」
ここ高牧総合医療センター救急救命室は群馬県でもトップクラスの医療レベルにあるため、生死のライン上の患者を日常的に受け入れている。看護師がうなずいて通話を続けた。
「負傷者は男性二名、年齢は三十代と二十代と思われます。一人は多発性外傷及び銃創で多量の出血! もう一名は頭部外傷と上半身の打撲で、脳内出血と内蔵損傷の疑い。それに両目に化学熱傷を負っているようです! 二名とも血液型はRH+B。一人は心室細動、もう一人は心静止で両名心肺停止状態です!」
看護師からの報告に罵り声をあげた救命医はすぐに指示を飛ばす。
「止血を優先しつつ心肺蘇生処置を継続しながら搬送するよう伝えろ!必要なら除細動は一分おきだ!」
「センター内のストックでは足りないかもしれない。血液センターに連絡して、大至急RH+Bの血液を手配!」
「CTとレントゲン、MRIを空けておけ!化学熱傷の洗浄と中和処置ができる眼科医も待機だ!」
別の医師からも次々と指示が飛ぶ。死亡が確認されていない状態の急患が多く運ばれる救急救命は戦場だ。死神との小競り合いは日常茶飯事、勝つ日もあれば負ける日もある。医師を始め技師や看護師は、その口調とは裏腹にふてぶてしいまでに冷静だった。
五分後、止血と心肺蘇生処置を続けながら搬送する救急車が二台、救命救急専用口に到着する。事件現場からの距離を考えると、ドクターヘリを飛ばすより速い。
「一、二、三!」待ち受けていた医師や看護師がストレッチャーに患者を移すと、点滴の針が刺された。救急救命室に運ぶ最中も止血と心肺蘇生処置は途切れることなく続けられている。たとえゼロに近い救命率だろうが関係はない。救急救命に携わる医療関係者としての強固な意思と誇りが、患者にとって命の最後の砦となっていた。
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