今宵、ポロンクセマな秘事にて

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 *  間もなく()(こく)になろうとしている。湯浴(ゆあ)み後、(こと)姫は側仕(そばづか)えのお(いと)に寝化粧を(ほどこ)された。  「これはまたなんとも面妖(めんよう)な……(まなこ)が落ち着かぬ。それに重い」  わさわさする。それに(かゆ)い。  「姫様、今(しばら)くのご辛抱(しんぼう)にございます。今宵(こよい)の儀が(とどこお)りなく相済(あいす)みましたならば(すみ)やかにお取り外し致します(ゆえ)」  「うん」  早く外したい。  琴姫は鏡にうっすらと映る自分を見て小さく笑った。今宵、自分はこのような姿で若君を迎え入れるのか。大丈夫なのか。もしかして(たばか)られたのやも。寝所へとやって来た若君に、たわけとか慇懃無礼(いんぎんぶれい)であるとか怒られたりしないだろうか。  心が落ち着かない琴姫に気づかぬ様子のお糸が、一仕事終えたと言わんばかりに達成感に満ち溢れた顔を浮かべ言った。  「(かや)様に命じられましたお支度は全て整いましてございます。では、これより寝所に参りましょう」  「う、うん……」  「フフ、そうご案じ召されますな。若君は情に厚く(ふところ)の深い御方。かよわき姫様を優しく(みちび)いてくれまする」  顔面蒼白(がんめんそうはく)気味の琴姫に、お糸がふわりと微笑む。  そうだと良いのだけど。別にかよわくもないけど。  こうして身を清めた琴姫は、(あか)りのついた蝋燭台(ろうそくだい)を手にしたお糸に連れられ、虫の音を耳にしながら若君の寝所へと続く薄暗い廊下を静々(しずしず)と進んだ。
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