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そこから更に夜も更け、見目麗しい有禅の登場によって緊張で目がすっかり冴えてしまっていた琴姫であったが再び眠くなった。また桃と烏のぽろんくせまが頭の中に現れ始めた。今度は桃と烏が首尾良く川を流れているではないか。仲睦まじいのぅ。あなめでたや。
有禅の前で船を漕ぐ訳にはいかぬと思いつつも、限界に近づきつつある琴姫の頭は激しく前後に揺れた。
「流石に限界のようじゃな。この寝顔をこれから毎日見られるのか……なんと贅沢な話か」
ただひたすら琴姫の眼に付いていたくせまに優しく触れつつ琴姫に愛を囁いていた有禅が、琴姫のそんな様子を見て呟いた時。
ぽろん。
船を漕ぐ琴姫の眼に付けてあったくせまが、とれた。
「……よし。それでは今宵はここまでとするかの。なんとも面白き時間であった。お陰で募る想いは増えたがの。ここから三日後の祝言の日まで手を出すことなく耐えねばならぬとは手厳しいな……南蛮人はよほど気が長いと見える。それとも意地が悪いのやら……」
苦笑混じりにそう言うと、座したまますっかり船を漕ぎまくる琴姫を抱きかかえ、有禅は床へ入ることにしたのだった。
――終――
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