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LINEが来ていることを示す通知ライトが光っているのに気づき、俺はスマホの画面を見た。
「やべ、おかん?!」
母親が絵文字混じりで、今日一人暮らしの俺のところに襲来するというメッセージが来てたのは、1時間前だった。
「まずいまずいまずい!!」
慌てて腰を浮かせて、机に足をぶつける。
別に部屋が泥棒が来たあとのようだから掃除しなくちゃとか、そういうことではない。いや、それもある。
現在午後4時半。さっき起きたばかりだ。アラームも止めて爆睡してたらしい。ここ数ヶ月は朝起きれなくて、しばらく大学に行ってない。起立性調整障害とかではなく、単に深夜バイトに明け暮れていて朝眠いだけだ。出席日数が足りなければ単位を落としまくるのも道理。高い学費は親持ちであるからには親不孝そのものである。留年の通知が母親に届いたから天誅を下しに来る、という可能性もあるわけだから、まずいはまずいが、それだけではない。
その時、玄関からノックが聞こえた。インターホンは壊れてそのままだ。
「嘘だろ、はやすぎね?」
散乱してる服を拾い始めた矢先の訪問者である。玄関まで足を忍ばせながら走り、スコープを覗く。
母親ではなかった。よりによって元カノだ。居留守を決め込むか迷ってると、声がした。
「いるんでしょ? 見てないで開けなさい」
元カノの発する命令に従う癖は抜けきらない。即座に開けてしまう関係性にせめて威厳を示したくて、いつもより低い声を出す。
「なんだよ、忙しいんだよこっちは」
「忘れ物を取りに来たの、入るわよ」
「いやいやいやいや、俺が探すから、何だよ忘れ物って」
「誰かいるの? それか誰か来る?」
こいつはどうして推測なのに当ててくるのか、過去の苦い記憶が甦る。
「関係ないだろ、いいから教えろよ」
「ああー、もう新しい彼女いるんだ」
鋭い。預言者越えて神かよ。部屋の中を覗こうとする元カノを、それよりは背の高い俺が体を張って押し止める。
「あら、涼真、何してるのこんなところで」
聞き慣れた声に心臓が跳ね上がる。最悪だ、母親だ。しかもよくわからないスーツ姿のおっさんも引き連れて。母親は元カノに興味津々といった表情で、にこやかに距離をつめてきた。
「どうもー、涼真の母ですー、こんにちはあ」
「あ…ども、……涼真さんの友人、です」
何か察したらしい元カノは、俺に同情の目を向けてきた。
「あたしはー、じゃあこれで失礼を…」
「あらまあ、来たばかりなんでしょ? どうぞどうぞお入りなさいな、私たちも入るんで!」
「ちょ、勝手に決めんなよ!」
こういうときの母親のコミュ力は本当に意味がわからない。元カノに腕を絡ませ、ロックオンしている。
「いや、おかんこそ、何だよその後ろのおっさ…、んん、男性のかたは」
「あ、やだあ、紹介が遅れたわね! 涼真、あなたの新しいお父さんよ!」
「はああああ?!」
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