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素っ頓狂な声が辺りに響き渡った。いや、そんな近所迷惑とかよりも聞き捨てならない話を聞いた気がする。
「あああ新しい、って、あの、その、俺の父さんは?!」
死別したとか離婚したとかいう話は一切聞いてない。普通に実家で夫婦で暮らしてるんじゃなかったのかよ。
「涼真のお父さん? あー、あの人はねー、いいの」
「よくねーよ!」
「私たちはね、ソウルメイトっていうの? 運命で結ばれたふたりだから、これはもう変えようがない事実なのよ」
元カノに絡ませてる腕とは逆の腕を伸ばして、スーツ姿のおっさんの手を握る。
「涼真くん、はじめまして、どうぞよろしく」
「いやいや、おっさんもおっさんだよ、いーのかよ、それで!」
もうおっさん呼ばわりでいい。俺の父親よりやや年上な気もするが、俺を前にして照れてる姿が痛々しい。元カノがドン引きしてるのを見て、俺も同じ表情してんだろーな、と思う。
「ていうか、まだ父さんと離婚してないなら、不倫だろ」
「そこはまだそういう関係じゃないから安心して!」
「いやいやいや、おかんがどーしようと勝手だけど、俺は絶対に認めねーからな、急に父親とか言われたって」
「ちょっとぉ? うるさいよお隣さん」
突然の声に、一同が一斉に目を向ける。まずい、隣に住んでる竹下さんだ。ゴミ出しの日とか細かくて面倒な人だ。ドアから小太りな体を半分出して、こちらを窺ってる。
「と、あれえ? 源ちゃん、どしたのこんなとこで!」
「いやー! 竹やん、お久しぶりですなあ!」
源ちゃんと呼ばれたスーツ姿のおっさんと、竹やんと呼ばれた竹下さんが、お互いに歩み寄って固い握手を交わした。
「なに、最近どうよ、源ちゃん、上京したの?」
「いやあ、まあいろいろありまして」
「やだ、二人はお知り合いなのー?」
ぽかんとしてる俺と元カノを後目に、3人が和気あいあいと挨拶をし始める。それをぼんやりと眺めていたが、急に我に返った俺は、元カノに今のうちに帰るよう目で合図をする。元カノも目線で同意すると、すうっと後ずさりをした。
「せっかくだから、涼真の話も聞きたいわ!」
母親が、がっと元カノの腕をつかんだ。
「この子ったら連絡もよこさないで、大学もサボってるみたいで――」
うわっ。
「涼真の高校の同級生で同じ大学に進学した子から聞いたのよー、最近学校で見かけてないですね、って」
あいつかよ、裕太。裏切り者、という単語が浮かんだが、別に口裏合わせを頼んだわけでもないし、恐るべきは母親の情報網である。
「あたしはあ、あまり涼真さんと親しくないんでー」
「あら、あんた、元カノさんってやつだろ?」
お隣の竹下さんが余計な情報を差し込んできた。
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