ぱにっく@the front door

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「あら! 元カノさん! ごめんなさいねえ、涼真がたぶんろくでもなかったんでしょ?」 「もう、やめてくれよ、わかったから帰ってくれよ!」 隣人が俺の彼女事情をチェックしてるという事実だけでも怖いのだが、取り敢えず訳がわからないこの状況を何とかしたい。解決というより、一旦全員帰ってくれたらそれでいい。 だが、母親はすっと俺に近寄ると小声で言った。 「あんた、留年するん?」 「そそそそそんなことは」 「余計な学費、自分で払えるわよねえ?」 バイト三昧ではあるが、貯金などない。使い切っているからだ。 「新しいお父さんはね、事業を3つやっててね、それは潤沢な資金力で涼真を応援してあげてもいい、って仰ってるわよ」 「えっ」 ぐらり、と心の天秤が源ちゃんに傾く。 いや、だからといって、お金の有無で父さんを捨てるのか? いや? 応援を受けるだけなら、別に捨てることにはならないのでは…? 「…ちょっと、検討したいかなって」 曖昧な笑みが口元に浮かぶ自分が嫌だ。しかし、スーツ姿の源ちゃんは俺を屈託のない笑顔で見つめると、背中をばん!と叩いてきた。 「これからよろしく、涼真くん!」 「いやー、源ちゃんがお父さんになるなんて、きみは本当にしあわせだよ!」 竹下さんが何故か涙を浮かべて、うんうんと頷いている。 いや、これどういう状況だよ。 「あのー…」 別の方向からかけられた声に、また一同が振り向く。深々と帽子をかぶり、サングラスをかけている女性が――今カノだ。 「ああああ、あの、早かったね?!」 「時間通りだけど…」 もう午後5時か。いつの間にそんな時間になってたんだ、ていうか、ここで今カノ来るのまずいから! 「ああー、どーも、あたし涼真の元カノですぅ」 ほら! やっぱり!! 「あら! あなたが彼女?! どーも、母ですぅ」 やめてやめて!! 「今カノさんとやらは、確かアイドルやってるんですよね、だからそういう変装して」 竹下さん、まじでこええよ!! 元カノの口から、へええ、と低い声が出る。 「今カノさんはぁ、いつからお付き合いを?」 神がかった勘を持った容赦ない審判官が誕生する。戸惑う今カノの前に進み出ると、俺の母親がそうしたように、元カノは腕を絡ませてにっこり微笑んだ。 「今日はね、涼真くん取り込み中みたいだから、あたしとデートしよ?」 そして、俺の方を見て、笑う。 「今カノさんが知っておいたほうがいい情報、あたし持ってるから」 笑えない。 行こ、と短く言って、元カノは今カノを連れて行った。
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