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残された俺達は、その後ろ姿が見えなくなると、顔を見合わせた。
「お、こんな時間か! 源ちゃん、またさ飲みにいこうよ!」
「わかりました、竹やんいつでも連絡ください、ゆっくり話しましょうや!」
じゃ、と片手を上げて、竹下さんは自分の部屋に戻っていった。秘密警察並みの観察力のうえ、散々引っかき回して、さっと引く竹やんの手腕には、今後の対策を考えなければなるまい。
「なーんか疲れちゃったわね、私達もいきましょうか」
「えっ、結局何しに来たの?」
母親の突然の提案に、俺はツッコまざるを得ない。
「何って、挨拶にきただけよ? 今から私達は銀座でお買い物するのよ、そのついで」
「ええー…」
その母親の気まぐれなついでで、いろいろと失った気がするんだが。
「涼真の元気そうな顔も見れたし、じゃあね」
来たときと同じように源ちゃんを後ろに引き連れて、母親も去っていった。
ひとり残った俺は、大きくため息をついて、その場でしゃがみこんだ。尻ポケットに入っていたスマホが、その勢いでぐっと押し出されて床に落ちる。
「ああー、もう…」
スマホを手に取ったとき、ふと俺は思い立って父親にLINEをしてみた。
『おかんがうちに来た』
すぐに既読がついた。
『あーね』
あーね、じゃねーよ! 思わずスマホを投げ飛ばす衝動に駆られるところだった。微妙な若者言葉使ってくるのも、何だかムカつく。
『いいのかよ』
既読はすぐついたが、メッセージが送られてくるまでは、少し間があった。
『なんとかなるよ』
なるのかよ。考えてみれば、父親は俺よりもずっと崖っぷちな気がする。俺がこんな突然の訪問ごときで慌てふためいていたというのに、この余裕だ。少し、見直した。
俺は立ち上がり、自分の部屋に戻った。乱雑な散らかりようは持ち主そのままの姿で、少し笑える。床に置きっぱなしにしていた空のペットボトルを2本手にして台所に運んだとき、着信音が鳴った。
知らない番号だ。
「…はい」
「わたくし、クラウディア芸能事務所の塩川と申しまして、当所に所属しております一柳さくらとの交際について少しお話を――」
ああああ! 俺も崖っぷちだ!!
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