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「最初に、フランク君。君は彼女との婚約解消を望んでいるんだね」
「はいそうです、理由は……」
「理由は今はいらない。エレノア。君は婚約解消は望んでいないのかい?」
「いいえ。私も婚約解消でかまいません」
「なるほど。それでは、結論から言うと、君たちはお互い婚約解消を望んでいる。では、私が承認になり、ここに婚約解消の意思を記した書類を用意するからサインをするように」
先に婚約解消は決定事項としてから話し合うようだ。
「では、イザベラ、ミランダ。君たちが受けた嫌がらせというのを教えてくれ。それによって慰謝料の有無が決まるからね」
分かりましたと彼女たちは頷いた。
きっと身に覚えのない、ありもしない事実をいくつも挙げられるんだろう。
私は断固それに対して認めるつもりはない。
「エレノアは私が廊下を歩いている時に、足をかけて転ばそうと……したように仕組んで陥れました。廊下を歩いている時に彼女を突き飛ばしたのは私です」
イザベラは顔面蒼白になり口を手でふさいだ。
私も驚いて彼女の顔を凝視する。
「君が、エレノアを突き飛ばしたんだね。いつ?」
「言語学の授業の後、エレノアが一人で歩いていたので突き飛ばしました。彼女は足首を捻り、数日松葉づえで過ごしていました。ざまみろと笑いました」
「なんだって!」
フランクが驚いてイザベラの顔を見る。
イザベラはいったいどうしたんだろう。
「何で……なんで正直に話してるんだろう。ちが、違わない」
イザベラは何が何だか分からない様子だ。
「フランク様の婚約者だなんて生意気だから、怪我をすればいいんです。私はお茶をかけて……かけてなんていない。お茶をかけて火傷させようとしました」
「は?何を言っているんだミランダ!」
驚いた顔でフランクがミランダに詰め寄る。
ハッとして、ミランダ様は顔を伏せた。
「ああ、言い忘れていたけれど、さっき飲んだハーブティーは、白状草と言って、犯罪者に真実を語らせる時に使う薬草茶なんだよ。これを飲んだ者は嘘がつけなくなるんだ。大丈夫、効果は二時間ほどだ。人体に影響はない」
「わた、私は……嘘なんて、嘘をフランク様に伝えました」
イザベラは立ち上がり逃げ出そうとした。
「駄目だよ。ちゃんと話さなくっちゃ。それにここ、研究室だからセキュリティー万全だ。鍵がかかっているから逃げ出せないよ」
その後はもう告白合戦みたいになり、皆が私に対して行った嫌がらせを白状していった。
フランクは唖然として、ただ仲間を睨みつけている。
驚いた事に、その事実を全く知らなかったようだ。
この状況にどう対処すればいいのか分からないようだった。
「エレノアの制服をハサミで切り刻んだのは私です」
「エレノアの鞄を池に投げ入れて……」
「エレノアがフランク様の後をつけていると嘘を言って、待ち伏せしていたと言いました」
どんどん出てくる私への嫌がらせの数々。聞いていて自分でも吐き気がする。実際にこんなにひどい事をされていたんだと思うと、我ながら自分の忍耐力の凄さに賞賛を贈りたいレベルだ。
全てを聞き終えると、先生はフランクに告げた。
「さて、ここまでの事を全て記入したけど、慰謝料はまとめてフランク、君へ請求するよ」
「僕は……私は何も知らなかった」
フランクが愕然とした様子で額を押さえる。
「君が騙されたというのなら、彼女たちから、慰謝料を取り立てろ。直接、迷惑をこうむったのはエレノアだ。被害者は彼女だ。それに、彼女達や取り巻きの事を疑いもせず、信用したのは君だからね。君の監督責任だ」
「なんで私たちが慰謝料なんか払わなくっちゃいけないのよ!この女が身の程知らずなのがいけないんでしょう」
イザベラが立場を弁えずに文句を言い出した。
「身の程知らずなのは君たちの方だ!」
先生が彼女を一喝する。
皆が一斉にピシリと姿勢を正した。さすが教師、迫力がある。
「これから、王宮に出仕する事が決まっているのに、フランクは人を見る目がないという致命的な欠点を吐露した。悪いと思っているなら、これ以上エレノアに負担をかけるな」
フランクは先生に怒られて、悔しそうな顔をした。
なんてことだ……あきらめに似た苛立ちが彼の表情から伝わる。
自分の不甲斐なさに腹が立っているのだろう。
「これ以上恥をかきたくなければ、素直に慰謝料を支払うように。勿論、全て君の有責でだ」
「はい。申し訳ありませんでした」
フランクは頭を下げた。
「私に謝るのではない。謝罪すべきはエレノアにだろう」
「この女がフランク様の婚約者だなんておかしいでしょう!フランク様だって子供なんか相手にしたくないって言ってらしたわ」
「だまれ!この嘘つきめ!」
フランクは愕然たる様子で怒りを彼女たちにぶつける。
しかしなんとか理性で押しとどめ、私の前に膝をついた。
「すまなかったエレノア。本当に申し訳ない……」
やっと謝った姿は、とても情けなかった。
きっと彼にとっては、屈辱なのだろう。
「君たちはもう、エレノアに関わるんじゃない。フランクは責任を持って、彼女たちが今後エレノアに近づかないように対処しろ」
「はい。わかりました。彼女たちが万が一エレノアに危害を加えるようならば、投獄を視野に入れます」
「え!まさか」
「そんな馬鹿な!」
二人は自分たちが犯した罪をやっと理解したようだった。
「傷害罪だ。怪我をさせたのも、火傷させたのも、立派な犯罪だろう」
「そうだな。それと、自分たちに変わり、誰かがエレノアを傷つけても、全ての容疑は君たちに降りかかるだろうから心しておけ」
「そんな……」
イザベタたちは泣き出した。
同情はできない。本当にくだらないし馬鹿々々しい。
先生は先程サインした証明書をテーブルに置いた。
「婚約解消は、ここに認められた。これは王族である私が承認だ」
「王族?」
何を言っているのだろうと先生の方を見る。
「ああ、言い忘れていたけど、私は国王の弟の息子だから、一応王位継承権を有している」
「先生が王族?それは……本当に?」
先生は私の方を見ると、優しく微笑んだ。
「そうだよ。薬草の学者として仕事をしているけど、一応王族だ」
そうだったんだ……
初めて聞かされた事実に私は戸惑ってしまった。
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