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薬学研究室で、先日あった出来事を先生に話していた。
「なんだか君は強くなったな」
フランクにはっきり思っていた事を告げられた。
その報告に先生は私の成長を感じたんだろう。
「言いたいことを我慢して、泣いてばかりいた自分はもう卒業しました」
「そうだな。初めて会った時は裏庭で大泣きしていたもんな」
それを言われると恥ずかしい。
今では、なぜフランクたちに冷たくされただけで泣いたのか分からない。
あの時は自分の容姿を揶揄われ、悔しかった。
一人で辛かったなという記憶しかない。必死だったんだろう。
「人を見た目で判断してしまうのは仕方がないです。私だって綺麗なものは好きですし、かっこいい人に目がいきます。けれど、自分は人の中身を見られる人間でいたいと思います」
「君、そこまでイケてなかったかな?確かに幼さが残っていたけど、可愛らしいリスみたいな、ウサギみたいな感じだったよ」
「先生、例えが動物です」
「はは、人は見た目が九割っていう言葉もあるからね」
私の見た目が動物って事かしら。
「先生は、私の事を見た目で判断して、無視したりしなかったです。初めてここの裏庭で出会った時は……あまり……相手にされてなかったかもですね」
「生徒は皆、同様に扱う。これは教師の鉄則だ。特別扱いはしないよ」
「そうなんですね」
自分だけが特別だなんて、おこがましいわね。平等に扱ってもらえたって事で良しとしましょう。
少し残念な気持ちになった。
「まぁ、あの時君は、私の事を庭師だと思っていただろう。結構長い間、庭師だと思われていたはずだ」
「はい。草むしりされてらしたので」
「確かに、しょっちゅう草むしりしていたな。雑草は土の栄養分を吸ってしまうからね。あえて何も言わなかったけどね」
先生は思い出したように笑った。
先生は王族なのに土いじりが好きだ。
普通そんな事は下働きの者に任せるのが当たり前なのに、なんでも自分でしようとする。
先生は貴族っぽい事はあまりされないのですか?
先生はなぜ独身なんですか?
先生は恋人はいますか?
毎日何を食べてるんですか?
「ダンスはできますか?」
「ん?」
あ、声に出してしまった。
「いえ、あの……私は王宮でダンスのレッスンを受けているんです」
「そうみたいだね」
「ダンスが上手く踊れなくて、教えてもらっています」
「ああ。それでフランクと踊ったんだよな」
「先生から、ダンスを教えてもらいたいとか……その、先生ですから。王族の方ですから、勿論ダンスはお上手でしょうし」
ああ。なるほどと気が付いたようだった。
教えてくれるだろうか。
フランクと踊るより、私は先生と踊りたい。
私は先生に期待するような視線を向けた。
「君にダンスを教えようとは思ってないよ。上手い断り方を伝授しようと思っているんだ」
「断り方?」
先生はそうだと言って頷いた。
「君はダンスをどこかの馬の骨……令息と踊る事は必要ない」
「そう……ですか」
「ああ。そんなにダンスがしたければ私が付き合う。だが、婚約者のいない、まだ学生の君が、いろんな男と手を取り合う必要はない。わかるね?」
「分かったような、分からないような?」
ダンスがしたければ踊るけど、他の生徒とは踊らなくていいという事なのね。
「確かに、婚約者でもない男性と踊るのは、淑女としてあまり好ましくありませんね」
「そうだよ。卒業するまであと一年だ。それまでは誰とも踊らなくていいんじゃない?」
せっかくのチャンスを不意にしてしまった気がした。
私は先生と踊りたかった。
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