16人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
子供のような侯爵令嬢
話しかけるなという言いつけを律義に守り、学園ですれ違う時に無視されても我慢した。できるだけ存在感を隠すようにその都度下を向いていた。
『婚約者だろう』とフランクが友人たちに言われているのを耳にすると、申し訳なく思うほどに自分はまだ幼い容姿だった。
彼が大人っぽい令嬢と一緒に歩いている姿を何度も目にした。
フランクは学園の令嬢たちに人気があるのか、エレノアはよく先輩たちから意地悪をされた。それでも自分が幼いから仕方がないと半ばあきらめて黙って耐えた。
「本当にお気の毒だわフランク様。こんな子供のような婚約者だなんて。少しは成長するように努力されたらいかがかしら?」
そんな事を言われても急に背は伸びないし、平らな胸は一向に膨らむ兆しを見せなかった。
豊満な体になるように、栄養のある物をたくさん食べる努力をした。背も伸びるようにジャンプしてヒールの高い靴を履いてみた。
でも、なかなか体は思うように成長してくれなかった。
どうしようもないことを考えても仕方がないと思い、その努力を勉強に向ける事にした。
頭まで悪いなんて言われたくはなかったから。
その日は遅くまで図書室で勉強していた。
この学園は王都にある。
一流の教員、最先端の施設、優秀な学業成績を誇る学園だ。
教材も豊富で蔵書量もどこよりも多いと言われている。
「あら、あなたこんなところで勉強して、頭ばっかり大きくなってお胸はスカスカって本当に可哀そうだわ」
フランクといつも一緒のグループにいるイザベラ様が話しかけてきた。
というより嫌味を言ってきた。
いつものことなので軽く会釈だけする。
「ここでフランク様と待ち合わせをしているの。王都にできた新しいカフェへ連れて行ってもらうのよ」
「そうですか」
「あなた、ここにいていいの?フランクと鉢合わせしちゃうかも」
図書館は待ち合わせに使う場所ではない。調べものや勉強をする為にあるものだと思っていた。
けれど、フランクと会いたくはないと思った。
「では、私はこれで失礼します」
そう言って荷物を纏めだした時に、ちょうどフランクたちが入ってきた。
いつも一緒にいるグループの友人たちと一緒だった。
「悪い、待たせたな、イザベラ」
フランクは私に気が付いていたがイザベラにだけ声をかける。
先程とは打って変わったしおらしい態度でイザベラ様が返事をした。
「いいえ。とんでもありません。ちょうどエレノア様がいらっしゃったのでお相手をさせて頂いていましたの。彼女は侯爵令嬢でしょう?わたしみたいな男爵令嬢とはあまり話したくないようで、ひと言しか返事をして下さいませんでした」
確かに、失礼しますとだけしか言ってないけど、その言い方だとまるで話しかけても私が無視したかのように取られる。
「爵位を笠に着るような人は相手にしなくてよろしくてよ、イザベラ。さぁ、参りましょう」
伯爵の令嬢であるミランダ様が私を睨んできた。
フランクは助けてくれる訳でもなく、何も言葉をかけてくれない。
「行くぞ」
ただ一言だけ発して、皆を連れて図書室を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!