子供のような侯爵令嬢

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絶対にこんな事で泣かないと思った。 でも涙が出てくる。 身長や体型は努力で何とかなる問題じゃない。 悔しさが込み上げてくる。 お父様もお母様もモデルのようにスタイルが良い。 なぜ私だけこんなにチビに生まれてしまったのだろう。 せっかく借りた薬草学の本が涙で濡れてしまう。 駄目だと思い席を立った。 誰にも見られない場所で思う存分泣きたいと思い図書室を出た。 そのまま中庭を通り、庭師が利用するのか庭園を管理する建物の裏に回った。 ちょうどベンチがあったので、そこに座って大泣きした。 わんわん泣いた。 お父様もお母様もいない、友達もできない。 皆が私に意地悪するし、誰も助けてくれない。 「うっ……うぇぇぇん……うわぁぁあ……」 悔しい。 「子ども扱いされるのは仕方がない。けど放っておいてくれればいいじゃない。わざわざ意地悪言わなくったていいじゃない。助けてくれない婚約者なんて最低だ……うっ……うわぁぁあん」 私は泣きながら鼻をすすった。 貴族の嗜みとしてハンカチは持っている。 けど、誰も見てないから鼻水を思いっきりすすった。 「あ……ね」 ぼそりと声が聞こえた。 私は驚いてハッと後ろを見る。 「悪いね、ご令嬢。ここは立ち入り禁止なんだよ」 「ご、ご、ごめんなさい!」 誰もいないと思っていたベンチの後ろに、小さな畑があった。 そこで草をむしっている庭師がいたようだ。 「すみません。どなたもいらっしゃらないと思って、勝手に入ってしまいました。お邪魔しました」 私は勢い良く立ち上がると、貴族らしく何とか姿勢を正してお上品にその場を後にした。 なんて最悪な日なんだろう。 庭師にまで恥ずかしいところを見られてしまった。 仕方がないからこのまま学生寮まで帰るしかない。 貴族専用の寄宿舎は、一人部屋ではなかった。 学園は学業の妨げにならないよう、身分による特別扱いをしない事になっていた。 学年が上がると個室が与えられるが、一年生のエレノアにはまだ同室のルームメイトがいた。 彼女はマリアと言って、私を嫌っている。 夜遅くまで灯りをともして勉強しているので眠れないと文句を言われる。 睡眠不足は美容に悪いらしい。 仕方なく早寝する毎日。朝は日の出前に目が覚めてしまう。 私の居場所は何処にもなかった。 宿舎の入り口ではたと気が付いた。 先程庭師に注意されたベンチに、借りたばかりの薬草学の本を忘れてきてしまった。 あれは貴重な本だ。何ヶ月も前から予約してやっと借りられたものだった。 夕食は好きな時間に食堂でとる事ができ、門限の八時までに部屋に戻っていれば誰にも文句は言われない。 急いで来た道を走って戻った。
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