子供のような侯爵令嬢

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「ああ、やっと来たか。これを取りに来るだろうと思って待ってたんだ」 さっきの庭師がベンチに座って私が借りた本を読んでいた。 「申し訳ありません。借りている本だというのに、忘れてしまうなんて」 「いや、まぁ……そうだね。気を付けて。学校の所有物は君の物ではない」 「はい。今後このような事がないように気を付けます」 エレノアは薬草学の本を受け取った。 「君、その本を読んで内容が理解できるの?」 「……え……」 まさか庭師にまで馬鹿にされるなんて思ってもみなかった。 「見た感じ、学生でもまだ……一年だろう。それは卒業生でも難しい内容が書かれているよ」 「はい。とても難しい本だと思います。でも、その方が時間がかかるからいいんです」 「時間がかかるから?」 エレノアには少しくらい難しい本の方が有難かった。早く勉強が終わってしまっては、やる事が無くなってしまう。 ずっと勉強しているほうが友達もいない自分にとってはありがたかった。 時間を持て余す事もない。誰かと無理やり話を合わせる必要もないからだった。 「時間が……余ったら、する事が無くなります。私はおしゃべりできる友人もいないので、時間を持て余してしまいます。勉強していれば誰かと話す必要はないので……とても有り難いんです」 「ああ……それは、たいそう気の毒だな」 庭師にまで同情されてしまった。 ショックのあまり落ち込む。 けれど、人と会話するのが久しぶりだった。 エレノアはとても嬉しかった。 「暇だったらここに来ればいいよ。友達になってあげるとは言わないけど、ここなら草むしりとか水やりとかいろいろ仕事があるからね」 まさかお友達を断られるとは思ってなかった。 いや、なってくれと頼んだわけではないけれど。 よほど可哀そうな令嬢だと思われたのかもしれない。 確かにその通りだけど、なんだか惨めな気分になった。 「ありがとうございます。行く場所が無くなったら、もしかしたら、またお邪魔するかもしれません。けれど、草むしりはした事がないので、お役に立てるかどうかわからないです」 彼はハハハと笑った。 「いつでもおいで。さぁ、早く帰らないと寮の食事にありつけないぞ」 庭師はそういうと建物の中に入って行った。 さすが、庭師だわ。 普通、令嬢が一人で帰るなら、見送るのが紳士なんだけど。 まったく私の事を気にしていなかったわ。 気を遣わなくて楽だわと思い、またここに来ようと思い、少しだけ気分が上向いた。 エレノアは軽い足取りで宿舎まで帰った。
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