卒業記念夜会

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フランクは卒業後王宮に出仕する。 王太子の側近として働くらしい。 まぁ、今までと何ら変わりはないだろう。私はそもそもまだ十六歳になったばかり、結婚するとしても卒業後だ。 「本当に結婚するんだろうか……」 あまりにも蔑ろにされすぎていて、婚約自体が継続されているのかも怪しい。思わずため息が出た。 「結婚?するの?」 隣から急に話しかけられた。 ふと横を見ると庭師さんだった。今日は正装している。スラッとしていてかっこいい。 「婚約者がいるようですので、解消か破棄されなければ結婚するでしょう。こう見えてもなんと、私は侯爵令嬢ですから」 「はは、確かにそうだね。いつも泥にまみれて作業しているから、君が侯爵令嬢だというのを忘れてしまう事があるよ」 彼は、果実水を口に運んだ。 本を忘れた日以来、私は頻繁に庭師さんのもとを訪れていた。 通い始めて、何ヶ月かたった後、彼が薬学科の教師なのを知った。 庭で草を育てているから、私はてっきり庭園管理の人だと思っていた。 大変失礼しましたと謝罪して、それ以来、先生の薬草づくりを手伝う事になった。 泥臭い仕事も最後までやり切り、すぐ結果が出なくても諦めない先生の姿は尊敬できた。 一時の欲に負けず、忍耐力がある彼のような人が成功者となるんだろうなと思った。 そのうち薬学に興味が湧いて、私の情熱を捧げるべきものはこれだという目標を見つけた。 「先生はダンスを踊らないんですか?」 「君が踊りたいなら踊ってもいいけど、あまり目立ちたくはないな」 先生は教師の中でも一番若い。 結構イケメンだと思うし、生徒たちにも人気があった。 私のような地味令嬢とダンスをすれば、目立ってしまうし恥ずかしいのだろう。 「そうですか」 「今日の主役は卒業生だからね」 先生とそんな話をしていると、卒業生の男子生徒が一人、私のところへやってきた。 先生は『ダンスの誘いかな?』と私の耳元で囁いた。 私は『そんな訳ないじゃない』と彼に視線を移す。 「フランクからの伝言だ。パーティーが終わったら、話があるから、裏庭のガセボへ来るようにだと」 命令口調に腹が立つ。 私に断る選択肢はあるのだろうか。 多分、無理だわと思い返事をした。 「わかりました」 フランクはガセボで待っていた。 まさに、一年ぶりに婚約者と二人で会う。 フランクは呼び出したにもかかわらず、挨拶もなしに話し出した。 「この一年、君と共にこの学舎で学んだ。やはり、私たちは相性が悪いと思う。両親には婚約解消の方向で話を進めてもらうよ」 学舎で学んではいたが、一緒にではない。 彼はとにかく、何らかの理由を付けて婚約解消したいのだろう。 「他のご令嬢と仲良くしていらしたとか、夜会にはエスコートもせず、プレゼントも渡さなかったとか、入学そうそう話しかけるなと言ったとか、それ以来一度も会話をしていないとか、そういうのは婚約解消の理由ではないのですね。あくまでも相性が悪かったという事ですね」 「き、君は……厚かましいな。そんなに私の妻になりたいのか?付きまとわれて迷惑したのは私の方だ」 付きまといってなに?詳しく説明してもらうのも正直面倒だけど、聞き捨てならない。 貴方の取り巻きから受けていた嫌がらせの事は、水に流せという事なのね。 「婚約解消でしたら、慰謝料だけはきっちりとお支払い願います。私は貴方に付きまとった覚えなどありませんが、もし事実だとしたら、貴方の周りにいる方以外で証人を。それと証拠もお願いします」 とたんフランクは眉間にシワを寄せ不機嫌になる。 まさか、私に言い返されるなどとは思ってなかったようだ。 「そんなものはない。そもそも、君が私の周りの友人たちを虐めたんだろう。イザベラやミランダに足を引っかけたり、お茶をかけたり、脅したり嫌味を言ったりしたそうじゃないか。全て人目のない所でだ。証拠や証人を残さないようにしていたのは君だろう」 ああ、この人は全然分かっていない。 その時、後ろの方でガサガサと音がした。 「ほうら、盗み聞き趣味の猫たちが潜んでいたよ」 先生がフランクの取り巻きたちを連れて、木の陰から出てきた。 「盗み聞きだなんて、そんなことしてません。フランク様が心配で、後を追ってきただけです」 先生は眉を上げて苦笑する。 「ここは外だし、夜も遅い。君たちは私の研究室においで。中の方が話しやすいだろう」 彼は全員を、庭園の管理棟に連れて行った。 庭園管理もしているが、この棟は薬草学の研究室も併設している。 新しい施設で、設備も充実している。 「さぁ、ここで話をすればいい。フランク君とゆかいな仲間たちだね。そして、エレノアは一人。私はレフリーをしよう。その前に、皆が冷静になれるようにお茶を用意するよ」 先生は私たちに椅子をすすめ、ティーカップに温かいハーブティーを入れて、持ってきてくれた。 「興奮していたら冷静な話し合いができないからね。まずはのどを潤そう」 自家製ブレンドだと言われて、皆がお茶を口にした。 飲んだお茶は少し酸味があり、不思議な味がした。  
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