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あっという間にアウトを三つ取り、今度はスワンズ側の攻撃。一番バッターが内野安打で出塁し、二番がバントで一塁ランナーを二塁へ進める。三番バッターがライト前にタイムリーを放ち、あっという間に点数が入った。
教科書に手本として載っていそうな鮮やか過ぎる攻撃に呆気にとられていると、今度は何だかすごく打ちそうな体格のいい選手がバッターボックスに入った。
四番バッターの日下部麗司。表の守備で、ファーストにいた選手だ。昨シーズンは、三十本もホームランを打ったらしい。画面の下部にそんなデータが表示されていた。
二球でツーストライクと追い込まれてしまったが、粘りに粘って四球を選んだ。ワンアウト一、三塁。チャンスで回ってきた打席に、美澄は思わず食事の手を止めて食い入るように画面を見つめた。
五番、キャッチャー、間宮。ウグイス嬢のアナウンスをかき消してしまいそうなほどの大歓声が、要の背中を押している。バッターボックスへ向かう要の真剣な表情の中に、抑えきれない高揚感が滲み出ていて、何故か涙が出そうになった。
「……頑張れ、要先輩」
一球目は外に大きく外れてボール。四球でランナーを出した後だから、そろそろストライクを欲しがる頃合いだろう――と考えるのがセオリーだから、あえてもう一球外すかもしれない。でも、この勝負はきっと要が勝つ。読み合いは、昔から彼の得意分野だ。
ピッチャーが二球目を投げる。待ってましたと言わんばかりの鋭いスイングに、美澄は一瞬ボールを見失った。要がバットを放り、ボールの行方を見上げながら駆け出す。実況アナウンサーの声に熱がこもった。
――打球は伸びて、伸びて……入りました! 丹羽のタイムリーと間宮のスリーランで一回の裏から四点差をつけ、エースの若槻を援護します!
悠々とダイヤモンドを一周する姿は、あまりにもカッコよかった。負け試合にならないように、とは言ったけれど、こんなに活躍するだなんて思ってもみなかった。
気づかないうちに、口角が上がっていた。怪我をしてから五年もの間、ずっと意地を張って野球から目を背けていたのに。憧れていた先輩が活躍しているのを目の当たりにして、心臓がいい意味でドキドキと鼓動の速度を上げていた。
次に会ったら、なんて声をかけようか。
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