遺伝と環境と

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遺伝と環境と

「あーあ……」  大きく伸びをして、スマホを学習机の上に放り出す。  夕食後に自分の部屋の机に直行したのは、勉強のためなんかじゃなく、短期間で確実に身長を伸ばす手段を調べるためだった。びっしりと書き込んだノートに視線を落として、溜め息も落ちる。 『身長を伸ばす方法』  検索しまくって、あちこちのサイトから拾った内容をノートに書き写した。まとめると、身長に関係する要因は2つあるらしい。  まず、1つ目の要因は「遺伝」。  両親の身長から、子どもの身長はある程度予測できるそうだ。  男子の場合、両親の身長の和に13を足したものを2で割り、それに2を足す。  僕の父親の身長は、確か168cm。母親の身長は、多分154cmくらい。身長予測の計算式に当てはめると、僕の身長は……。 「169.5cm。5.5cmも足りないじゃないか」  実際は、他の要因の影響で変わりうるので、子どもが親の身長を超えることも珍しくないようだ。遺伝が絶対ではないというのは、とりあえず朗報か。  では、他の要因がなにかというと、それは環境要因と言われるもので「成長ホルモン」に関係している。  そもそも“身長が伸びる”ということは、“骨が伸びる”ということだ。骨の両端には「骨端線(こったんせん)」という軟骨があって、脳の下垂体から分泌される成長ホルモンによって成長が促される。  成長ホルモンの材料は、タンパク質と亜鉛だ。タンパク質が多く含まれる食品は、肉、マグロ、エビ、大豆製品など。亜鉛が多く含まれる食品は、牡蠣、レバー、ナッツ、牛肉など。  ただし、成長ホルモンが分泌されるためには、この2つの栄養素の摂取に加え、良質な睡眠を取り、適度な運動をすることも必要だという。  質の良い睡眠を取るには、寝る前のスマホの使用は控えること。布団に入ってからの使用なんて言語道断だ。なぜなら、成長ホルモンは睡眠後の2~3時間で約70%が分泌されるからだ。スマホのブルーライトは脳を興奮させるので、背を伸ばすには大敵なのだ。  また、毎日起床後に太陽を浴びることも大切らしい。体内時計がリセットされて、夜、自然に眠くなり、スムーズに深い眠りに入ることができるという。  そして運動だけれど、骨の成長に有効なのは縦方向に負荷のかかる適度な筋トレだという。具体的には、立つ時間を増やす、階段を使う、足の裏を付けたまま背筋を伸ばして座るなど。  これらに加えて、骨の材料になる栄養素――タンパク質、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンCなど――をバランス良く摂取することも大切らしい。 「はぁ……」  盛大な溜め息が出た。理屈は分かる。きっと努力するならば、成長ホルモンの分泌に関わる各項目なんだろう。だけど、これじゃ時間がかかり過ぎる。仮に、5年後175cmを超えているとしても、意味はないんだ。 「あとは……コレしかないか」  僕は、再びスマホを手に取った。
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