ただし書き

お試し期間

　伸長アプリ“MAX GROW”。
　アプリを開くと、細かい文字でびっしりとアプリについての説明文が表示された。最初の内こそ真面目に読んではみたものの、月並みな注意喚起の項目ばかりなので、ザッと目を通して「→次へ」をタップする。どうせ無料登録分しか使わないのだから、問題ないだろう。万一効果があって、有料登録することになれば、そのときにきちんと読み直したらいいだろう。
　ユーザー登録画面が表示された。名前、性別、年齢、生年月日、居住地……僕の基本情報を入力して、「→次へ」をタップした。
　ようやくユーザーの希望を具体的に入力する画面になった。“伸ばしたいもの”の選択肢から「身長」を選択する。

「現在の身長、154cm。希望の身長は……175cm。あれ？　なんで」

　登録出来ない。代わりにポップアップが表示された。

『こちらの無料コースは、7日間のお試し商品となっております。ご登録可能な最大値は【5cm】までとなっております。これ以上をご希望の場合、恐れ入りますが有料コースへのご登録をお願いいたします。』

　なるほど。上手く出来ているな。とりあえずお試しなんだ。5cmでも無料で伸びるなら、儲けもんだ。僕は素直に5cmと入力して、「→次へ」をタップする。

『ご登録ありがとうございます。サービスを開始するには、【開始】ボタンをタップした後、ライトが消えるまで画面を見つめ続けてください。なお、点灯中に目を閉じたり、画面から30cm以上離れると、効果は期待出来ません。』

　メッセージのポップアップと入れ替わりに、画面中央に【開始】と書かれた丸いボタンが表れた。

「ライト……点灯？」

　一瞬、戸惑ったが、ここまできたんだ。覚悟を決めて、【開始】ボタンをタップした。

「わっ！？」

　その途端、スマホの画面全体からゆっくりと深い青色の光が放たれた。それほど眩しい光ではないけれど、見つめているとジワジワと瞳の奥の……その奥、まるで眼球の裏側までもが照らされているような錯覚に陥った。更に光り続ける青いライトを見つめていると……段々と心が無になり、頭が空っぽになっていく。まるで全身がこの光に侵食されていくみたいだ……。

　発光は、不意に終わった。多分、実際は1分も経っていないのかもしれないけれど、時間の感覚が狂っている。光は消えたのに、まだ目の奥に青い残照が溜まっているみたいだ。

「なんか……ヤバいヤツかも……」

　突然、身体から力が抜ける。椅子に沈んだまま意識が落ちて、スマホがスルリと手から離れた。