第一章 王子様のプロポーズ

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 エレベーターが開く音が聞こえた。慌ててノートパソコンをシャットダウンもせずに閉じる。この時間に会社にいることが知られるとまずいので、デスクの下に隠れた。  誰かがオフィス内に入ってくる。デスクの下からこっそり見つからないように顔を出すと、スーツを着た高身長の男の人だった。  警備員さんかなと思っていたけれど、会社の人だったらもっとまずい。どんどん奥に進んできて近付いてくるので、腰を屈めながらサッとデスク下から出て、別のデスク下に隠れながら入口へと向かっていく。  見つからずに無事にオフィスルームを出て、エレベーターホールまで行けたので、こっそりと誰が来たのか確認するために中を覗き見た。  薄暗くてよく見えないけれど、ただならぬオーラを発している人物だ。モデルのように細く、高身長で顔が小さい。  こんな人、うちの部署にいたかなと記憶を探る。佐伯さんも美丈夫だけど、こんなに身長は高くない。  謎の人物は、私のデスク前に立ち、閉じたノートパソコンをじっと見つめている。その横顔を見て思い出した。 (社長だ!)  二十代の若さで、一流企業の社長となった御曹司、伊龍院 大翔(いりゅういん ひろと)。本来後を継ぐはずだった大翔さんのお父様は、大翔さんが幼い頃にお母様と一緒に事故で亡くなられたと聞いている。社長だったおじい様は、高齢で体調不良のため相談役となり、大翔さんが後を継いだ。
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