第一章 王子様のプロポーズ

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たしか、大翔さんが大学を卒業して四年後くらいに社長に就任していた気がする。若いため不安視されていたけれど、年々実績を積み重ねて海外からも高く評価されているとか。  社長と初めて対面したのは、就職の最終面接。役員の方と一緒に座っていたので驚いた。  近くで見ると、俳優のように整った顔をしていた。瞳は鋭く切れ長で、鼻筋が通っていて、シャープな形のあごが美しく引きたっていた。手足は長く、黒い柔らかな髪はしっかりとセットされている。白シャツにブラックスーツというクラシックなスタイルにも関わらず、品があって洗練されて見えた。 あまりにも完璧に整い過ぎていて、独特の魅惑的なオーラをまとった社長は、まるで別世界の住人のようだった。あまりにも緊張していたので、その時なにを話したのかは覚えていない。 (なんでよりにもよって社長がいるのよ!)  こんなに夜遅くまで仕事していたわけ? 帰りなさいよ!  自分のことは棚に上げながら、心の中で悪態をつきながらも、顔は真っ青になっているのが自分でも分かる。手汗びっしょりだ。 (社長には、絶対に見つかるわけにはいかない)  バレたらまずい相手のトップに君臨している。なにがなんでも逃げ切らなければ。  深呼吸をして覚悟を決めた。エレベーターに乗るわけにはいかない。エレベーターホールを忍者のような素早い忍び足で走り、廊下端にある階段を下りる。  下りながら二十三階であることに絶望したけれど、今は逃げ切ることが先決だ。気合だ、根性見せろ、工藤捺美!
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