第一章 王子様のプロポーズ

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階段が絨毯仕様で良かったと心から思う。黒のリクルートパンプスで階段を駆け下りた。  四階か五階分下りた時、上から怒るような声が降ってきた。 「誰だ、止まれ!」  社長の声だ。もう、絶対、止まれない。止まれるわけがない。さらに足を加速させる。 元陸上部を舐めるなよ! 体力というか、根性には自信がある。 (どぉぉりゃあああ)  と心の中で叫びながら階段を駆け下りる。気合が先走ってしまったのか、片方の靴が脱げた。  一度止まって、階段を見上げる。靴は数段上に落ちていた。取りに行こうと思った瞬間。 「待て、こらあ!」  とヤクザが怒鳴るような社長の声が聞こえて、もの凄い速さで迫っていた。  もう恐怖だった。靴は諦めて、片方の靴も脱いでバッグに突っ込み、なりふり構わず駆け下りた。リクルートパンプスを履いていた時は、一段ずつしか下りられなかったけれど、二段、三段飛ばしで転がるように下りた。  もう怪我をするかもとかどうでもいい。とにかく逃げなければ!  しばらく無我夢中で駆け下りていると、後ろから追いかけて来る足音が消えた。  おそるおそる後ろを振り返ると、階段には誰の姿もなかった。 (諦めてくれた?)  荒い息を吐きながら、思考を巡らす。 (違う、エレベーターで先におりて私を待ち伏せする気なんだ)  確かに階段を下りるより、エレベーターの方が早い。考えてみれば当然のことだ。  エレベーターが先か、私が下りるのが先か……。
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