第一章 王子様のプロポーズ

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 気が付いたら、もう十階分は降りていた。エレベーターより先に一階に着く可能性もある。 いや、ここは確実に勝ちを手に入れよう。  私の頭の中では、勝ち負けになっていた。社長から逃げ切れたら私の勝ち。負けの許されない戦いだ。  フロアに戻り、廊下の反対側へと走る。非常扉を開け、外階段をおりる。ストッキングを履いているとはいえ、ほぼ裸足。コンクリートの冷たさが足裏を突き刺す。  無事に地上に降りたち、オフィスビルを後にした。 (……勝った)  自分の勝ちを確信したら、どっと疲れが溢れ出てきた。二十三階からノンストップで駆け下りた。火事場の馬鹿力だったかのかもしれない。足が疲労で震えている。  ほぼ裸足で歩道を歩きながら、さてどうやって帰ろうかと考える。  暗い夜道は人通りが少ないので、裸足で歩いていても気付かれることはないけれど、明るい電車のホームに入ったらさすがにぎょっとされるだろう。 (タクシーかぁ。出費が痛いなぁ)  ただでさえお金がないのに。でも、社長に見つからなかっただけマシと思おう。  タクシーを停めるために立ち止まって車道を見ていると、一台の黒い車が私の前に停まった。 (え、これタクシー?)  停まったのは、先端にエンブレムが付いた黒塗りの高級外車。  戸惑っていると、運転席の窓ガラスが開いた。
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