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「こんな夜中に、裸足でどうしたんですか?」
柔和な声の品がいい三十代中頃くらいの男性だった。甘い顔立ちで眼鏡をかけている。
「いや、あの、ちょっと脱ぎ落してしまって……」
「へえ、シンデレラみたいですね」
「いやあ、あははは」
満更でもなさそうな顔で照れ笑いをしていると、後部座席の窓ガラスが下りていった。
「なにがシンデレラだ、こんな色気のない靴」
後部座席に座っていた人物は、黒のリクルートパンプスを掲げて言った。
「あ……あ、あ……」
声にならない驚きと恐怖で固まっている私に、その男はさらに追い打ちをかける。
「おい、もう逃げようなんて思うなよ? 逃げたって無駄だからな」
黒の高級車の後部座席に乗っていた人物は、紛れもなく社長だった。
蛇に睨まれたカエルのように怯えている私を見て、不敵な笑みを浮かべている。
(負けたのは、私だった……)
「とりあえず、乗れ」
後部座席のドアが自動で開いた。
(終わった……)
パトカーで連行される罪人のような気持ちだ。逃げたい、でも逃げられない。
仕方なく私は全てを諦めて、車に乗り込んだ。
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