第一章 王子様のプロポーズ

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「こんな夜中に、裸足でどうしたんですか?」  柔和な声の品がいい三十代中頃くらいの男性だった。甘い顔立ちで眼鏡をかけている。 「いや、あの、ちょっと脱ぎ落してしまって……」 「へえ、シンデレラみたいですね」 「いやあ、あははは」  満更でもなさそうな顔で照れ笑いをしていると、後部座席の窓ガラスが下りていった。 「なにがシンデレラだ、こんな色気のない靴」  後部座席に座っていた人物は、黒のリクルートパンプスを掲げて言った。 「あ……あ、あ……」  声にならない驚きと恐怖で固まっている私に、その男はさらに追い打ちをかける。 「おい、もう逃げようなんて思うなよ? 逃げたって無駄だからな」  黒の高級車の後部座席に乗っていた人物は、紛れもなく社長だった。  蛇に睨まれたカエルのように怯えている私を見て、不敵な笑みを浮かべている。 (負けたのは、私だった……) 「とりあえず、乗れ」  後部座席のドアが自動で開いた。 (終わった……)  パトカーで連行される罪人のような気持ちだ。逃げたい、でも逃げられない。  仕方なく私は全てを諦めて、車に乗り込んだ。
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