第一章 王子様のプロポーズ

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『生意気な子ね。お父さん、捺美が夕飯作らないって言ってるんだけど!』  継母は私を責めて、挙句の果てには父を出してきた。 『捺美、仕事が忙しいのか?』  継娘や継母とは違う、穏やかで優しいトーンで父は話した。 「……うん」 『そうか。だが、仕事は後からいくらでもできるだろ。早く帰ってきなさい』 「……わかった」  父から言われると断れない私。継娘や継母はそれをわかって父を利用してくる。私が父の頼みを断れないように、父も継娘や継母の頼みを断れない。それが、どんな理不尽なことだとしても。  最先端のデザインオフィスは、クリアな白い空間にグリーンの観葉植物が配置されている。広々としたフロアには快適なデスクが並べられ、広々とした窓からは夕日の茜色が差し込んでいる。 自分のデスクに戻り、帰る準備をしていると、職場の同僚の女子たちがそれを目ざとく見つけて寄ってきた。 「工藤さん、また定時上がりですかぁ?」 「合コンとか?」 「可愛い子は飲み会に引っ張りだこでいいなぁ。私は仕事が忙しすぎてそんな暇ないもの」  ニヤニヤしながら嫌味を言ってくる。  私は鞄に書類を詰めながら、彼女たちの顔を見ないで返事をした。 「飲み会じゃないです。用事ができたんです」 (私だって仕事が忙しくて飲み会になんか行く暇ないってば)  心の中で毒づきつつ、苛々した気持ちが隠せなくて、乱暴にペンケースを鞄に押し込んだ。  彼女たちがこんな態度になったのは、自分にも責任があると思っている。慣れ合わないし、言いたいことは面と向かってはっきり言ってしまうし、生意気だと思われても仕方がない。
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