第一章 王子様のプロポーズ

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「人のこと言っている暇があるなら、自分の仕事をしたらどうだ。この前俺が頼んでおいた……」 「ああ! 私、経理部に行かなきゃいけなかったんだ! 失礼しま~す」  彼女たちはまるで蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 「佐伯さん、ありがとうございます」  ペコリと頭を下げてお礼を言うと、佐伯さんは興味なさそうにタイピングを打ち始めた。  現在、佐伯さんの営業事務は私が担当している。今まで何人もの女の子たちが異動を願い出た気持ちが痛いほどわかるくらい、佐伯さんは厳しい。  仕事の鬼といっていいくらいだ。私も佐伯さんは恐い。  佐伯さんに認められるほどの仕事はできていないし、むしろ怒られることの方が多いけれど、佐伯さんは理不尽なことや意地悪が目的で怒っているのではないことは、この半年で十分わかった。  理不尽なことや意地悪することが目的で怒られたりすることが多かった私にとって、佐伯さんの怒りはもっともだと納得することができるし、自分の努力で改善することができるので耐えられた。  それに、家の事情により定時で上がることが多い私は、佐伯さんの『やることさえやれば何時に帰ってもいい』という方針はとてもありがたかった。  とはいえ、その『やるべきこと』が終わっているかというとそうでもなく……。
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