第一章 王子様のプロポーズ

7/20
前へ
/190ページ
次へ
 家の掃除なども済ませると、時刻はもう二十二時を過ぎていた。エプロンを外して、通勤バックを手に取り家を出る。  この時間なら、もう会社に残っている人はいない。本当はいけないことだと分かっているけれど、残してきた仕事を片付けたくて会社に向かった。  タイムカードを押した後に、残業をすることは禁止されている。上場企業なので、そういうところは特に厳しい。  でも、こうでもしないと終わらない。やるべきことを終わらせないと佐伯さんに怒られるし、定時上がりで帰ることもできなくなる。  ビルの裏口にある社員専用出入り口の自動扉に社員証をかざした。  中は暗く、しんと静まり返っている。あまり遅くまで残業をすることは上層部から良く思われないので、深夜残業する人はほとんどいない。  アプリのタイムカードを更新した後に、こっそり会社に戻って仕事をしているなんてバレたら絶対に怒られる。  暗く静まりかえったオフィスは不気味だ。  私だって好きこのんでこんなことやっているわけではない。残業代もでないし、深夜のオフィスは怖いし、寝不足になる。  でも大した学歴もなく特別に秀でた能力もない私が入れた一流企業。なんとしてでもしがみ付きたい。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1350人が本棚に入れています
本棚に追加