友人のタイプ

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 業務時間が伸びて、いつもより遅くなってしまった帰り道、学生時代の友人と、久しぶりの再会を果たした。こんなこともあるからたまの残業も悪くない。入った居酒屋で話が弾む。 「マジ?お前結婚したの」 「した。大学卒業して間もなくだったかな、タイプの美人でさ、びびっときたんだ」 「へえ。童貞だったお前がねえ」  学生時代はどちらかというと奥手で、合コンに誘っても女に話しかけられなかった男が、所帯を持つ。驚くべきことではあった。  だが案外そういう男の方が女性受けするのかもしれない。俺はジョッキに入ったビールを飲む。 「お前がそこまで言うなんて、よっぽど美人なんだろうな」 「おう、スレンダーっていうか、細いんだけど好きなのは首かな。すらっとしてる、そこいらのモデルなんか目じゃない」 「フェチってやつか?マニアックだね」 「しょうがないだろ。好きなんだ」 「のろけるなって」  吐くジェスチャーをした俺は枝豆をつまんだ。胸がでかいやら顔がかわいいやら、そういう自慢ではないことに好奇心が出てくる。首が好きな男に会ったことがないせいかもしれない。 「写真みせろよ、あるんだろ?」 酔った勢いで要求するとスマホを差し出される。 「この前撮ったやつ。美人だからって好きになるなよ?」 写真を見た俺は目を見開いた。  友人と別れた帰り道、顔をしかめる。友人と仲違いしたのではなく、写真が問題だったのだ。あれさえなければ、もう少し心穏やかにいられたかもしれない。 「ろくろ首じゃねえか」  スマホに映っていたのは、とんでもなく首が長い美人だったのだ。一メートルはあった。ぐねぐね長い首を写真に収めた笑う女性、人の好みはよく分からない、幸せならいいか。  そこまで考えた俺はふと、自分の好みも不安になった。自分の好みは、他人から見ても普通なんだろうか。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加