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黒の楽園
チューリップの色は、球根の段階で決まっているらしい。
当初、私の球根には赤いテープが巻かれていた。赤い花が咲く予定ですよ、とみんなに教えるために。
「それでは皆さん、自分が育ててみたいチューリップを選びましょう!いろんな色がありますよー」
「やったあ!」
私は、ラッセル学園初等部で先生達が用意したチューリップの球根だった。この学校には、貴族の子供達が多く通っている。子供達に命の大切さを教える授業の一環として、私達チューリップの花を育てさせようというのだ。
チューリップとして生まれたからには、綺麗な花を咲かせて、みんなに愛でられる一生を送りたい。
わくわくしながら待っていた私を手に取ったのは、双子の姉弟だった。
藍色の髪をツインテールにしたのが姉のエリカ。首の後ろで一つ結びにしているのが弟のエルトンである。まだ八歳の二人は、二人で一つの球根=私を手に取って先生に言ったのだった。
「先生、あたし達、二人で一つのお花を育てたい!」
「先生、おれ達、なんでも二人でやるんだ。双子なんだから、なんでもいっしょなんだ。だから一緒のお花を育てるんだ、だめ?」
きっと、先生も迷ったことだろう。普通は、一人で一つのチューリップを育てることになっているのだから。いくら双子が同じクラスでも、彼等にだけ特例を認めていいものか。
最終的に先生がOKを出したのは多分、この国で双子というものがとてもめでたいものだとされていたからだろう。この世界ではまだまだ双子は少ないし、産まれてすぐ片方が死んでしまうことが少なくなかった。二人揃って八歳まで生きているのは奇跡だし、彼等を神様の使者だという人さえもいたほどだったのである。
「わかったわ、二人とも。でも、大事に育てるのよ」
「やったあ!」
「ありがとう、先生」
先生の言葉に、喜んだ二人は私を撫でながらニコニコと嗤ったのだった。
「これは赤いチューリップだね、エルトン」
「そうだな、エリカ」
「きっとすごく綺麗なお花が咲くよ、楽しみだね」
「うんうん。おれ達で、すっごく綺麗なお花を育てような」
私は嬉しかった。
二人が私のことを愛し、私の花が咲くその時を楽しみにしてくれているのがわかったからである。
実際、姉弟はとても律儀で、毎日きちんと水をくれた。肥料の調整も丁寧にしてくれたし、日当たりも気にしてくれた。大雨や大風の日はみんなと一緒に校舎の中に入れてくれるようなこともしたのである。
そして、私が小さな芽を出し、折り重なった葉を伸ばすようになると、彼等はきゃあきゃあと高い声を上げて喜んでくれたのである。
「おれ、チューリップにはかっこいい名前をつけてやるんだ。このチューリップは、男の子だからな!」
「何言ってるの、チューリップは女の子の花よ。あたし、可愛い名前をつけるんだから」
「赤いんだぞ?戦隊ヒーローの赤だ。リーダーは赤なんだから、男の赤だ!」
「ちがう!女の子の方が赤は似合うんだから、この子は女の子だもん!」
時々、そういう子供らしい喧嘩をしているのも見たことがある。
私は自分ではなんとなく女の子だと思っていたけれど、別に男の子の名前がついても全然構わなかった。
愛する人がつけてくれる名前なら、そして愛情をこめて呼んでくれる名前なら――どんな名前だろうと、嬉しいものに決まっているのだから。
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