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喜びの日々に陰りが見えたのは、私がつぼみをつけてからのことだった。
私のつぼみは、みんなが想定していた色ではなかったのだ。
「ねえ、これ、黒いチューリップじゃない?」
先生が不安そうに、私を見下ろして言った。
「やっぱり、そうよね?おかしいわ、確かに赤いチューリップのテープが巻かれていたのに」
どうやら、私は赤ではなく、黒いチューリップだったらしい。
確かに、チューリップは球根の段階では何色の花が咲くか判別することができない。判別するためには、栽培収穫時に種類ごとに分けて、何色の花が咲くのかテープを巻いて識別するしかないという。
多分私は、その時の仕分けが間違っていたのだろう。もしくは、突然変異で色が変わってしまったのかもしれない。少なくともこの国では、黒いチューリップは栽培しないことになっているらしいから。
というのも。
「どうしましょう……!小学校に黒いチューリップなんて、あまりにも不吉だわ」
先生が怯えたように言った。そう、この国では、基本的に黒という色が忌み嫌われているのである。特に黒い花は、不吉を運んでくる象徴とされて、贈り物にもしないし飾りもしないのが一般的だった。特に、子供達には不幸を呼ぶ存在とみなされ、近づくことさえ許さないのが普通だったのである。
もちろん、そんなもの科学的根拠はないし、あくまで国教の中で神様が忌むべきものと教えているからという、それだけの理由でしかないのだけれど。
「ごめんなさいね、エリカ、エルトン。二人には、別に赤いチューリップを用意するわ。それを育てて頂戴」
先生は、私が入った植木鉢を持ち上げて回収しようとした。そんな、と私は絶句しつつも、花なので何も言うことができない。もうすぐ咲くことができるのに、その前に処分されてしまうのか。ただ黒い花だというだけで。ただ、その色が忌み嫌われているだけというだけで。
私は何も、誰かを不幸にしたくて花を咲かせようとしているわけではないというのに。
「やだ!」
「絶対やだ!」
双子は先生の足にすがりついて、泣きながら止めた。
「あたし達が育ててきたのはその子だもん!その子を枯れるまでお世話するんだもん!先生もそうしろって言った!!」
「で、でもねエリカ。黒いチューリップは不吉なもので……」
「知らねえ!おれたち、赤いチューリップでも、黒いチューリップでも、そいつを育ててきたんだ。そいつをきれいなお花にしてやるんだ。不吉なんてそんなことねえもん、おれたちのお花だもん!そいつを持ってかないでよ、先生、先生!」
「エルトン……」
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