黒の楽園

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 ***  その世界は、沈黙している。  突如として、ありとあらゆる地面から生えてきた黒いチューリップ。その黒い津波に、あらゆる生き物が津波のように呑み込まれたのだから。  ある者は蔓に巻き取られて窒息死し、ある者は地面に生き埋めとなり、ある者は分泌される不思議な樹液にどろどろに溶かされて死んでいった。チューリップの芽は人々がどこに逃げても関係なく発芽し、コンクリートの隙間からも出現し、凄まじい速度で成長して人々を追い詰めたのである。  飛び散る花粉は人々を発狂させ、絶望し混乱した人間同士での争いも起きた。  黒い花弁に大量の血が飛び散れば、チューリップはその血肉さえ養分にして天高く伸び続けたのである。  黒の楽園には、ただチューリップだけが存在している。  もはや誰にも――その開花は止められない。
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