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「あのう、アリアさん、明日、荷物を受け取って下さい。」  西野(めい)がアリアに声をかけた。彼はリセット日本支部のプログラマー兼ハッカーだ。あんまり喋らないが、人見知りというわけでもない。 「え、荷物?」 「はい。だって誕生日、近いでしょ? プレゼントですよ。本当はドッキリで送りたい所ですけど、そういう訳にもいかないし。近くのコンビニ受け取りにしますか?」 「うーん。」 「じゃあ、俺が取りに行きます。」 「いいや。待ちなさい。今、ここを離れる訳にはいかないでしょ。代表だけど、一番、(ひま)なわたしが受け取ることにするわ。送り先はうちにしといて。」 「分かりました。」  明は言われた通りにした。この場のほとんどの人間が、山岸家の正しい住所を知らない中で、彼は知っている。子供の頃からの知り合いとか、そんな話だった。 「あ、明日じゃ届かないや。日曜日になるかなあ。」  明が声を上げた。 「日曜? まあいいよ。」  そんな会話がなされる。 「おはようございまーす。」  ミランダがやってきた。一応、出社という形態になっている。マンションのフロアの中に小さな貿易会社があることになっていた。 「おはよう。」  明も返した。 「何、それ?」 「なんでもない。アリアさんに誕生日プレゼントを贈るって話。」  ミランダが納得した表情を浮かべる。 「ああ、そういうことね。気が利くねー。そういうことなら、一緒に送って貰えば良かったなぁ。」  と言いながら、ミランダは(かばん)から小さな小箱を取り出した。 「はい。早めですけど、これどうぞ。誕生日プレゼントでーす。」 「まあ、サンキュー、ミランダ。」 「そんなに、ありがたがらないでくださいね。」 「え? なんで?」 「送れないと思って、持ち運びしやすい小さい物にしたんですよー。」 「まあ、そういうこと? 小さくても価値あるものなんでしょ?」 「いえいえー。けっこう、安いですよ? ほんと、明君、後でアリアさんとこに送って貰えるように手配してくれないかなぁ?」 「…え? アリアさん、どうしますか?」  話を振られた明はアリアに確認する。アリアは少しだけ考えてから承諾した。 「……うん、じゃあ、そうしておいて。明が手配してくれるならそうしておいて。」 「はい、了解です。」  何でも無い、穏やかな一日の始まりだった。  最終日の金曜日。  何事もなく、午前中まで終わった。みんなにリセットしまくった結果、当然といえば当然だが、先生達は真面目に授業を始め、サボると当然、注意を受けるようになった。  だから、リセットしにくくなったのだ。それで、昼休みを利用して、三階の三年生のいる棟まで行き、リセットした。なんとかできたのでいいことにした。言い出しっぺの貴奈は、目の覚めた友人達に取り囲まれて、一緒にするどころではなかった。  まあ、別にいいので勇太が一人でやったが。 (さあて、とりあえず終わったな。いいことすると、やっぱ気分がいい。)  なんて思いながらぶらぶら歩いた。本当は三年生は人数が多いので、別棟にも別れているが、そこまではできなかったので仕方ない。そっちの方まで行って様子を見ると、そこだけ取り残されたように、スマホを見つめて自分達の世界に入り込んでいた。 (やっぱ、スマホ借りるの延長しねーとな。かわいそうだもんな。)  勇太はそんなことを思う。きっと、成績も著しく差がついてしまうことだろう。人生を左右する。  勇太は階段を下った。そこの棟から渡り廊下で、自分達のいる棟まで行ける。二年生は二階にあるため、渡り廊下も二階に下りる。ほとんど人が来ない。実際に勇太一人だけがいた。 「チカダくん。」  後ろから声がした。少し日本語がたどたどしい、大人の女性の声。振り返るとALTの先生がいた。リズ・シェイマン。金髪に青みがかかったグレーの目の、典型的な白人女性の先生だ。綺麗な英国語を話す。米語ではないということだ。そういう(なま)りがない。 「リズ先生。どうしたんですか?」  勇太は少し身構えて答えた。だって、二人きりで話したことなどない。しかも、美人な先生だ。じっと勇太を見つめてきて、勇太はどぎまぎした。だって、何か熱っぽい目で見てくる。 (な……なんだろう。俺に気があるのかな? えー!? うそ、マジで!?)  自分で勝手に妄想して、勝手に興奮する。 「ふふ。」  何やらリズがそんな笑いを漏らした。ふわっと近づいてきた。 「ネ、ユウタくんってヨンデいい?」 「え?」  ユウタが混乱している間に、ふわっといい匂いがして、抱きしめられた。 「!」  その瞬間に勇太の思考がショートした。
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