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 日曜日の昼過ぎ。  勇太と貴奈は、近くのショッピングモールをぶらぶらしていた。昨日、留守番をしていたので、今日は出かけておいで、と千哉とアリアが送り出してくれたのだ。ただ、祥二の見張りというか、護衛付きだが。本屋で漫画やライトノベルを立ち読みした後、トイレに行くことにした。 「祥二さん、俺達トイレに行きます。」 「分かった。」  祥二はトイレに続く廊下の入り口に立った。さすがに中にまで入りにくい。入ってもいいが、入るとリセット本部との無線が入りづらくなる。 「祥二、階下のフロアに怪しげな者を発見。気をつけろ。」  無線が入った。手すりから身を乗り出して下を見ると、確かに怪しげな男の姿が見えた。祥二は二人が出て来るのを待とうとしたが、別に怪しげな男の姿も発見した。よく見れば、辺りに何人もいるではないか。 「怪しげなヤツらが多い。一度、俺が姿を見せて追っ手をくらましてくる。」  勇太と貴奈のことが気になったが、二人の命を守るためにも祥二は追っ手をまくことを優先することにした。  その頃、トイレに入った勇太は用を済ませた後、手を洗っていた。すると、奥の個室から出てきた男が勇太の真後ろに立った。他には誰もいない。 (? 隣で洗えばいいのに。) 「リセットは慈善事業者ではない。ただのハッカー集団だ。」 「!」  思わず振り返ろうとすると、背中に何か固い物を突きつけられた。 「振り返るな。声も出すな。」  勇太は鏡の中の男を見つめた。よくマフィア映画で被っているような帽子を目深に被り、黒のコートを羽織っている。それがまた、妙に似合っている。コートの下は上等そうなスーツを着て、ワイシャツにネクタイを締め、襟に模様が入っていた。  いかにも映画のカッコいい悪役のようなスラッとした姿に、勇太は一時、同性であるが見とれていた。勇太より背は高いが顔は見えない。勇太の真後ろにいて、ちょうど勇太自身の頭で見えなかった。 「もう、リセットに関わるのはやめろ。危険を身に招くぞ。あの見張りの男をまいておいた。今のうちに家に帰れ。そして、二度とリセットには近寄るな。関わってもいけない。犯罪者になりたくなかったら、忠告を聞くことだ。  そして、タワーマンションには絶対に近寄るな。あそこに戻ってはいけない。」  そう言うと、さっと身を(ひるがえ)してトイレを出て行った。男がいなくなった途端、勇太は大きく息を吐いた。どっと疲れた。今頃になって手が震え出す。もう一度、手を洗い直すとトイレを出た。  すると、貴奈が出てきた所だった。何かあったのか、顔色が悪い。 「おい、どうした?顔色が悪いぞ?」 「……勇太こそ。」  そう言いながら、貴奈は近くのベンチに座り込んだ。 「大丈夫か?」  勇太も隣に座る。 「……トイレに美人な女の人がいた。」  勇太はさっきの男の事を思い出した。 「その人に言われたの。リセットに関わるなって。ただの犯罪組織のハッカー集団だって。もう家に帰りなさいって言われた。」 「俺も。」 「え!? トイレに女の人が来たの!?」 「いや、違う。そうじゃなくて、こっちはカッコ良さげな雰囲気の男の人。それで、貴奈が言われたことと同じことを言われた。祥二さんをまいておいたから、今のうちに帰れって。タワーマンションに戻るなって言われた。絶対に近寄るなって。どうする? 帰る?」 「……よく分かんない。でも、もう明日、月曜日だもん。一応、鞄が学校の(かばん)しかないし、みんな持ち歩いてるけど。」  勇太も持ち物が学校に行くときの物しかなかったので、全部持って歩いていた。 「本当は警察か何かの人かな? 一度、家に帰った方がいいのは、そうだと思う。」  二人は言いながら立ち上がった。確かに祥二の姿はない。よく分からなかった。リセットの山岸家の人達はいい人達だ。子供達も素直で、花月も小生意気なことを言っているが、妙に素直な所もある。  それに、祥二だって悪い人ではなさそうだ。迷いながら二人は歩き出した。自然と家に帰る方に向いている。 「一言、電話してから帰ろうかな。」  貴奈が言い出し、鞄を探った。 「あれ、電源が入らない。何でだろ。電池、そんなに減ってたっけ? 勇太、あんたので電話してよ。」  勇太は言われてスマホを出したが、こっちも電池が極端になくなって、電話しようとした途端に電源が落ちてしまった。 「俺のもダメ。」  二人はなんとなく、さっきの男女が関係していると思ったが、確証はなかった。  結局、二人は家に帰ったのだ。
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