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 家に帰り着く一つ前のバス停で、勇太と貴奈は祥二に捕まった。 「おい、お前ら。連絡もしないで、どこに行くつもりだ?」 「……。家に帰ろうと。」 「……。一言、連絡ぐらいしてもいいだろ。電話もできないってか。」 「すみません。なんか、急にスマホの電源が切れちゃって。」 「ああ。ちょっと待て。」  何かいらついた様子で話していた祥二は、電話がなった。 「はい。千哉さん。大丈夫です。今、見つけました。二人とも無事です。怪我も無し。襲われたわけじゃないので、安心して下さい。なんか、電話の電源が急に切れたと本人達は言ってます。まだ、これから詳しい話を聞くところです。……ええ、はい、分かりました。  それで、アリアさんの具合はどうですか? 昇君大丈夫です?」  何か千哉から聞いて、うんうん、と祥二は繰り返し頷いた。 「痣ですんで良かったっすよ。ほんと。至近距離からでしょ? ()たれたの。昇君も花月ちゃんも何もなくて良かった。」  はあ、と祥二は心底安堵したように息を吐く。 「え…? えぇ!? まあ、分かりました。……そりゃ、多少はちょっと引きますよ、その提案。でも、安全が最優先ですもんね。分かりました。…はい。そしたら、こっちは任せて下さい。……はい。……また、連絡します。アリアさんにお大事にとお伝え下さい。…はい、じゃ失礼します。」  勇太と貴奈は顔を見合わせた。一体、何の話をしているのだろう。言っている意味が分からない。“撃たれた”と言ってなかったか? 「お前ら、どんだけ心配したか、分かるか……!」  祥二が怒っている。平日なら人がいるが、かえって日曜日で周りに人がいなかった。貴奈がびくっと身を引く。 「いいか、お前ら。心して聞け。今日、お前らが戻らなかったのは、不幸中の幸いだ。もし、戻ってたら、お前ら犯人と鉢合わせしたかもしれない。」 「…犯人って?」  勇太の質問に、祥二が大きなため息をついた。 「アリアさんが撃たれた。お前らが出かけた後だ。もし、帰ってきてたら、逃げる犯人と鉢合わせしてたかも。そうなれば、お前らも場合によっては口封じされたかもな。」 「え!?」  勇太と貴奈は顔を見合わせた。 「昇君がちょうど出てきてしまって、危なかった。でも、犯人は子供が出てきたことで、動揺して逃げ去ったらしい。頭に銃口を向けたが、できずに腹の辺りを撃って逃げたそうだ。」 「でも、それじゃあ、大丈夫なんですか?」  貴奈がおろおろした声を出した。 「大丈夫だ。ちゃんと防弾ベストを着ていたさ。」  二人は目をしばたたかせた。防弾ベスト? 「まあ、秘密があってな。聞くな。どうして持っているのかは。それでも、撃たれた所は(あざ)ができて、内出血しているようだ。激痛で動けないって。昇君も、花月ちゃんも無事だから心配ないって。」 「良かったー!」 「ああ、びっくりした。」  二人がほっとすると、(きび)しい顔で祥二が(にら)んだ。 「そんな時にお前らがいなくなったから、焦っただろうが。どんだけ心配したことか。お前らが(さら)われたのかとか、本当にびっくりしたんだぞ。トイレにいないし。こっそり、女子トイレまで入ったんだぞ。冷や汗かいたわ。」  ショッピングモールで男に言われたことがあったが、祥二の様子からすると、悪い人にはどうしても見えない。 「すみません。あの、ここで立ち話もなんだし、近所の公園に行きますか? 近くに自販機もあるし。飲み物くらい、おごります。」  勇太が言うと、祥二は(うなず)いた。 「そうだな。ずっと走ってきたから、汗かいた。」  三人は公園の遊具にそれぞれ座った。今の時間に人はいなかった。みんなゲームにはまっているのだろうか。  祥二は仲間の車と自分の足でずっと走って来たそうだ。おそらく家に帰ったんだろうと見当をつけてきたらしい。千哉とアリアには家がどこか話してあった。  そこで、勇太と貴奈は、素直に祥二にもう一度謝罪して、ショッピングモールで会った男と女のことについて話した。  男の服装について話すと、祥二は考え込んだ。スマホを操作し、写真を勇太に見せる。 「もしかして、この男か?」  防犯カメラの映像だろうか。鮮明ではないが似ているようだ。 「たぶん。ほんと、背も高くて俳優みたいな感じでした。」 「顔見てないんだろ?」 「はい。見たうちに入らないっていうか。一瞬、俺の後ろに立つ前に見たくらいです。チラ見した感じ。」 「まあ、確かに当てになんないな。女の方については分かんないな。うーん。これじゃあ、ダメだな。」 「写真無いのか、残念だな。ほんと、美人だったんですよ。色気っていうの、こんな感じだって。」  貴奈が少し元気を取り戻した。さっきの話を聞いて、落ち込んでいたのだ。電話もしなかったことを。 「色気と美人は違うと思うが……。色気のあある美人なら分かる。」 「たぶん、それです。色気のある美人。」  貴奈は頷いた。 「たぶんだが、男の方はシャイン・アイズのけっこう、上の方のヤツかなー。リセットの本部の方から、要注意人物として上がってたヤツかもな。無事で良かったな、お前ら。」  やっぱり、そういう裏情報が入っている様子からして、リセットもグレーな組織かもしれないと勇太は思った。 「それで、何を引いてたんですか? 千哉さんから何か言われて、言ってましたよね。引くって。」  勇太が聞くと、祥二が困ったように鼻をかいた。 「それがさ、千哉さんがお前らが危ないから、勇太、お前の家に俺が泊まれってさ。俺、一応、合気道五段だし。」 「ええ、そうなんですか!?」  勇太と貴奈が驚くと、祥二はうんと頷いた。 「まあ、そうだよな、いきなり泊まれって言われても、お前の親に何て言うかってあるしさ。」 「そうじゃなくて!」 「あ?」 「鈴木さんって合気道五段だったんですね!」 「……ああ、そこに、驚くの? 親への言い訳とか考えなくていいわけ?」 「そりゃ、考えますけど、凄いじゃないですか! 全然、武術の黒帯持ってる感じがしないもんな!」 「こら、失礼だよ、さすがに!」  貴奈に注意されて、さすがに勇太は頭をかいた。  祥二は二人には言わなかった。リセットのメンバーが昨日、何者かに殺害されたことを。二人が出かけた時は、まだ連絡が来ていなかった。その後に分かり、祥二には連絡が入っていた。そして、続けてアリアの襲撃(しゅうげき)事件。急に事が動き始めていた。
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