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二人は学校が終わってから、学校近くのゴムンに行った。
『入り口から左に行って、まっすぐ行った正面のテーブル。』
という指示だ。いつも、なんとなく広いし右側に行くので、左側に来たことがなかったため新鮮な感じがした。二人が行くと、まだ相手は来ていなかった。
「ここ…だよね?」
「うん。間違いないと思う。」
二人はいつも来ている店なのに、おそるおそる座った。約束の時間の午後四時半だ。四時頃に学校が終わる。ゆっくり来たって十分もかからない。やがて、五分が過ぎた。
「ねえ、ほんとに来るのかなあ?」
「まだ、五分しか過ぎてないじゃん。お前なんて平気で十五分くらい遅刻するだろ。」
貴奈に対して勇太は答えたが、不安なのは同じだった。周りを見てみる。みんな友達同士でテーブルに座っているのだが、スマホを見つめていた。中にはロスト・ラヴしたのか、顔を合わせて話している人達もいる。
「何、あのラッピングバス。」
窓の外を見ていた貴奈が声を上げた。『なくそう、交通事故。』と書いてあるのだが、そのキャラクターが『あなただけ♡』の人気のキャラだ。思わず勇太もそれを見ていたが、視線を戻した途端、目の前に人が座っていて、二人は飛び上がりそうなほど、びっくりした。
「!!」
(びっくりしたー!何だよ、この人。現代の忍者かよ…!)
野球帽を目深に被り、後ろで髪を一つに結んでいる。だぶっとしたパーカーを来ていた。顔はうつむきかげんで絶妙に見えない。雰囲気からして男だと分かるが、今時、こんなスタイルの女もいる。
「お前らがリセットしたいのか?」
二人がその男に注目したと分かった途端、相手が単刀直入に言ってきた。声からして完全に男だ。あまりに自然体で話されたものだから、緊張していた自分達が馬鹿みたいに感じた。
「……はい。」
「誰を?」
「家族です。両親を。三人家族なので。」
勇太が答えると、男は貴奈に視線を向ける。
「お前は?」
「両親の他に妹もです。」
貴奈の妹の由奈は中二だ。
「今から本気かどうか確かめる。」
男は言うと、無造作にパーカーのポケットからスマホを取り出した。テーブルの上に滑らせるようにして、こっちに寄越した。
「電源を入れろ。待機状態にもしていない。使わない時は電源を切れ。」
必要最低限しか話さない男の指示に従い、勇太は電源を入れた。ブブーッとバイブがなって、電源が入る。画面はシンプルだ。一見ただのスマホだが、真ん中に大きな丸くて赤いボタンがある。まるで日の丸みたいだ。
「本当にリセットしたいなら、そのアイコンを押せ。言っておくが、そのアイコンを押すと、半径二十メートル以内にあるスマホのゲームをリセットする。もちろん、少しの間、停電する。」
「……少しって?」
緊張した声で貴奈が聞き返した。急に恐くなったのかもしれない。
「その機種の場合は、四十秒。レンチンで肉まんを解凍するより早いぞ。」
どこかやる気がなさそうに男が答える。
「やるのか、やらないのか。早くしろ。ほら、お前らが頼んだパフェがくる。あれが運ばれてくる前に決めるんだな。」
二人が頼んだパフェが、ようやく運ばれてこようとしていた。前よりかなり遅くなった。もう、頼んだことさえ忘れていた。注文してから二十分以上経っている。物凄く混んでいるならまだしも、案外そうでもない。
きっと、学校にすら出て来ない人がいるだろう。アルバイトも足りないのかもしれない。サービスの質の低下がここでも分かる事例だ。一歩、一歩、店員が近づいてくる。
「……!」
(…くそ、俺だって恐いけど、リセットできるなら、儲けもんだよな!)
勇太は思いきってアイコンを押した。
「何も」
「しーっ。」
『何も起こんないじゃん。』と言いかけた貴奈に対して、男は指を立てて静かにさせる。
途端に店中が停電した。ボタンを押してから、たぶん、二秒くらいしか経っていないけど、随分長かった気がした。
「え!?」
「何?」
「何、これ!?」
「停電?」
一拍の後、店中が騒ぎになった。久しぶりに生きている人達を見た気がした。みんな、スマホに向かっている間は、死んでいるも同然のような気がする。
「テスト、合格。」
淡々と男は口を開いた。
「これ、一日に一回しかできないから。お前らの家族は明日以降にリセットするんだな。」
「このスマホ、くれるわけ?」
「んなわけ、ねーだろう。貸し出し。レンタルだよ。期限は一週間。来週の今日、ここで返却してもらう。使わない間は、必ず電源を切ること。ほら、早く電源を切れ。」
男に指示されて、勇太は急いでスマホの電源を切った。
「家族だよな、リセットしたいの。家族だけにするんだろ?」
「はい、そうです。」
二人は頷いて、勇太はポケットに借りたスマホをしまった。男はそれを見届けると立ち上がる。ようやく店の中に電気がついた。
「ねえ、名前、なんて言うんですか?」
貴奈が尋ねた。
「鈴木祥二。じゃあな。落として壊すなよ。大事に扱え。」
祥二は片手を上げて、混乱している店の中を去って行った。そういえば、顔をよく見ていなかった。今度会った時、ちゃんと分かるんだろうか、そんな不安がよぎったのだった。
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