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 勇太と貴奈は話し合い、勇太の家族が明日、次の日に貴奈の家族のリセットをすることにした。土日で学校は休みだから時間はある。両親は家にいる。父の昌義(まさよし)もいるはずだ。  リセットした日は両家とも、混乱の極みだった。カオス状態だ。両親はマイホームがゴミ屋敷になっていることに気がつき、仰天した。これでも、勇太がせっせと片づけたのだ。生ゴミと資源ゴミはかなり減ったはずだ。  ちなみに段ボールがやたらとあったのは、母の美子(よし)がネットで買い物を済ませていたからだった。  近田家は家族総出で大掃除を行った。次の日は斉藤家も同じだった。  ところで、父の昌義がヘンな人形を買おうとしていたことが分かった。しかも、三百万もするAI搭載のちょっとエッチな人形で、『あなただけ♡』対応の人形だったのだ。搭載しているAIに『あなただけ♡』をインストールできるようになっているらしい。 「なんで、こんな物を買おうとして!」 「ご、ごめん、だって家族みんなで使えばいいかと思って。」  いや、誰が共有するか? きっと、独り占めしたいはずだ。勇太は思う。 「わたし、全然知らなかったー。これがあるなんて。マル君が動いたら良かったのになー。残念だった。」 「……。」  きっと買っていたら、昌義は押しのけられ、母の美子に奪われていただろう。 「でも、三百万か。危なかったわ、セーフじゃないの。買ってたら、我が家の経済、ヤバかったんじゃない?」  こんな顛末(てんまつ)があったが、なんとかリセットされて両親の目は覚めた。斉藤家も同じようなものだ。  日曜日の夕方、貴奈がうちにやってきた。玄関先で話を聞くと、リセットのことだという。学校のクラスでもリセットしないかというのだ。 「でも、誰にするかって聞かれて、家族って言ったよな。あんまり、それ以外、しない方が賢明なんじゃねーの。」  勇太も最初は乗り気じゃなかった。 「でも、友達も先生もあの状態はヤバいでしょ。ちゃんと授業になってないし、来年、受験だし。一応、大学行って女子大生やってみたいし。」 「そんな理由で大学行くのかよ。(ちまた)じゃ経済が厳しくて、大学行けない人もいるのにさ。」  貴奈が唇を尖らせた。 「いいじゃん、わたしの夢なんだから。小さいけどさ、それくらい、いいじゃん。」 「分かったよ。それで、学校でもするって?」 「うん。一応、借りたの勇太だし。勇太がどうするかだと思って。」  確かに貴奈の言うことも一理あると思う。クラスの友達とも全然話ができていない。ロスト・ラヴしない限り、きっと話もできないまま、卒業となってしまうのだろう。それは嫌だ。 「分かった。たぶん、一日に一回っていうの、機械的な上限だと思うから、それさえ守れば、いいとは思う。」 「じゃあ、やる?」  貴奈が目を輝かせた。クラスの友達のことが心配なのだろう。その辺は優しいヤツだ。 「じゃあ、俺のクラスとお前のクラスからな。後はできたらってことでどうだ? 半径二十メートルだし、一回でニクラスくらい、いけるんじゃ?」 「あ、そうかもね。教室の大きさ、二十メートルもないもん。」  ということで、二人は次の日から、学校でもリセットを始めた。最初はドキドキものだった。でも、みんなが騒ぎ出して、目が覚めたように『ロスト・ラヴだ!』って騒ぎ出して、本当に目覚めて現状に気がついていくのをみると、やって良かったと思う。  月曜日から金曜日までやるつもりで実行した。二人の目論見どおり、一回で二学級分できたので、月、火で二年生が終わった。水曜に職員室、木曜には事務室と校長室だ。近くにあるので、ここも同時に終わった。金曜日には三年生を少しできた。 「ねえ、あの鈴木さんに会ったらさ、もう一週間、貸してもらおうよ。そうしたら、学校全部、終わるじゃん。一年生もしてあげないとかわいそうだし。」 「そうだな。」  勇太も乗り気になっていた。自分達の力で、厳密(げんみつ)に言ったら違うけど、でも、自分達のしたことで世界が変わっていく感覚は、とても特別感があって面白かったのだ。  午前中までは何事もなく問題なかった。だから、余計に高をくくっていた。このゲームを世界中にばらまいたのが、謎の世界的な組織だということを忘れていたし、たいしたことがないようにさえ思っていた。
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