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真の伸びとは一体何なのか。
茶虎は、簡単には答えを教えてくれないようだった。
しかし雑念―愛らしさを手に入れたいと思う気持ちがあったのは事実だ。それにより真の伸びが得られないのなら、なんと本末転倒ではないか。
真の伸びを得るには愛らしさを意識してはならず、しかし私の執着心は愛らしさを希求している。
だが、私はそもそもどうして愛らしさを手に入れなければと思っていたのか。理由は単純だ。相方に自分をもっと見て欲しい。自分の嫉妬心により生じた気まずさを元通りにしたい。嗚呼、なんと幼い動機だろうか。
「分かりますよぅ、可愛いって思われたいんでしょ、ご主人に」
公園を後にし、すみかの民家へと戻る途中。三毛は歌うようにそっと私へおとばを投げた。時刻は早くも夕刻である。薄黄金色の光が隣を歩く三毛の背中を照らしている。
「おおかた、ご主人からもっと可愛いって思ってほしくて、上手に伸びたかったんでしょ?」
「ど……どうして。私の心が読めるのですか」
「だって、そんなの皆ですよぅ」
くふくふ、と三毛はこちらをちらと見る。私はよほど切実な顔をしていたのか、笑いはすぐに止んだ。
「自分の可愛さを一番よく知っているのは自分ですもん。ご主人にもそう思ってほしいと考えるのは、ごく当たり前なのかもしれませんよぅ」
「しかし、伸びるには無心でいなければいけないのでしょう。それが難しいのです。一度、考えてしまうと駄目なのです。お師匠さまが言っていた通りです」
「あなたはとことん真面目ですねぇ」
では、と、三毛は尻尾の先を自身のすみかとは異なる方角へ曲げてみせる。
「さいごに、お友達のところへ寄り道していきましょう。あなた、あの子と雰囲気が似ているから、きっと仲良くお話できますよぅ」
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