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狛犬は可愛い、という相方の一言がなぜ気に入らなかったのか、思い返せば自分でもよく分からない。
相手は端的に言えば褒め上手なのだ。他の生き物やあやかしにも条件反射のように褒め言葉を投げかける性分である。
散歩をしているのか、通りかかった一対の狛犬はなるほど可愛らしかった。顔つきには未だ鋭さがなく、人間に飼われている子犬のような人懐っこさがある。狭い歩幅で懸命に歩くさまは、まさしく可愛いと呼べるものだ。
その様子を見、相方は溶けたんじゃないかと思うほど頬を緩ませた。
「良いね、可愛いね、癒やしだねぇ」
「……私は?」
と、拗ねた子供のようにことばが口からこぼれてしまった。しまったと思うもすでに遅い。
「何言ってるの、きみも可愛いよ」
「…………」
「そんなことを言うなんて珍しいね。もしかしてやきもちだったり」
違う、と首を振ったが相方は顔のにやつきを抑えようともしない。逆効果だ。
あぁけれど、最近褒められていないのは確かだ。忙しさを理由に、ないがしろにされている気がしないでもない。二又の尻尾も黒い毛並みも素敵だと、利発で頼りになると最後に言われたのはいつだったろう。
それに先程の言い方は何だ―狛犬「は」。私には可愛げがないとでも?
「冗談だよ、やきもちだなんて」
「褒められたいと思うのは贅沢ですか?」
「え?」
「なんでもありません。……少し出かけてきます」
相方を困らせたいのではないが、冷静になるには一匹で過ごす時間が必要なのだ。
私は後ろから追いかけてくる声に構わず、すみかを飛び出した。
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