イノチガケ

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 どうやら弓削社長は、伸び悩んでいる動画配信者に、どうすれば視聴回数やチャンネル登録者が増えるのかをアドバイスする仕事を始めたらしい。 「車屋君の経験ってさー、普通の三十代では得られないような経験をしてるんだよね。成功も失敗も味わってるわけでしょ?」 「ま、まあ……」 「これから事業を始めようとしてる人なんて大量にいるだろうからさー。伸びると思うんだよねー」  薄暗いバーのカウンターで、傍から見たら怪しげな取り引きをしているかのような、小さい声でのやり取り。 「どう? すぐに元通りの生活レベルに戻ると思うけどなー」  弓削社長の白い歯は、薄暗い中でもよく見えた。  確かに俺の経験は、そこらの三十代では経験できないような波乱万丈感がある。  どうせもう希望なんてないし……そんなに言ってくれるなら、やってみる価値はあるかもしれない。 「じゃあ軽くやってみます。一回死んだようなもんなんで」 「おお! いいねぇ! 一発目の動画撮ったら教えてよ。アドバイスしてあげるから」  最後にもう一杯飲んでから、俺は店を後にした。  弓削社長、人生の先輩心でも働いたのか……それとも朽ち果てた俺のことが見過ごせなかったのか。  稼ぎ過ぎている社長だし、ボランティアのような感覚で俺を気にかけてくれたのだろう。  あの口ぶりだと、全部無償でやってくれるみたいだ。  弓削社長、そこまで面倒見てくれるとは。  唯一、今までの俺の功績が、認められたんだと思えた瞬間だった。  気分が良いまま、帰路につく。  最寄駅からボロアパートまでの道のりはとても静かで、俺は星を眺めながら歩いていた。  都内に住んでいた時は、星なんか見ても何も感じなかったけど、改めてみると感動を覚えるくらいに綺麗だ。 「動画配信ねぇ……」
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