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「こちら、ステーキピラフセットです」
断面がまだ赤みがかっている、見るからに柔らかそうなレアステーキ。
ステーキの敷き布団役になっているガーリックピラフは香ばしさを放っている。
このプレート、付け合わせのポテトサラダまで美味しそう……。
「たくさん食べな、若者よ」
弓削社長、俺のこと一回りくらい年下だと思っているのか。
俺は全然若くない。弓削社長の五つか六つしか変わらないのに、若者扱いしてくれるとは。
俺がステーキピラフにがっついているところを、弓削社長は孫を見るかのような優しい目で見てくれる。
今の俺にプライドなんて何もない。
「じゃあ、ウチの部下から編集の方針を細かく決めて送らせるから。車屋君はいかに自分の経験を面白く話せるかだけ考えておいて」
「す、すいません。何から何まで」
「いいんだよ。あ、SNSのアカウントだけ作っておいてね」
「わかりました!」
弓削社長は優しい微笑を見せた後に、伝票を持ってレジに向かった。
その後ろ姿に「ごちそうさまです!」という声を飛ばす。
こちらは振り返らず、手だけ挙げて応えてくれた。
弓削社長……こんな俺のことを買ってくれるなんて。
確かに、俺の人生経験は金になるのかもしれない……弓削社長にとってもメリットがあるのだろう。
動画配信者になって、すぐに収益を稼いで、その金で恩返ししよう。
面白い動画を作って、再生回数やチャンネル登録者数を”伸ばし”、そして……もう一度高層マンションに住む。
やってやる。
一度死んだ人生だ。失うものは何もない。
今は強烈な後ろ盾がある。これがセカンドチャンス。
今度こそ、必ずモノにしてみせる。
動画配信による広告収入で、必ず成功を掴んでやる。
この命を懸けて。
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