イノチガケ

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 今まさに、地獄を歩いている。  暗く、儚く、手元を見返しても、残っているものは何もない。  華やかだった世界にいた頃の記憶は、今や白黒になって霞んでしまった……。  簡単に言うと、事業拡大に失敗したのだ。  飲食店を複数経営していたウチのグループは、調子が良かった時期から、年々売り上げが下がっていた。  このままでは経営は下火になり、繁栄することはない。    テコ入れの機会を窺っていたタイミングで、知り合いの社長からアパレル事業の誘いを受けた。  会社を持ち直すために、やってみる価値はあると思った俺は、挑戦してみることにした。  状況を変えるためには、新しいことにどんどんチャレンジしていかないといけない。  三十代半ばで、新しい業種の経営にチャレンジ。正直ワクワクしていた。  ……でも、それが良くなかった。  若者に向けた新しいブランドは全く見向きもされず、予想を大きく下回る売り上げに。  赤字は一年続き、ついには飲食事業分のプラス分も食ってしまうほどになった。  社員たちは愛想を尽かし、一人、また一人とやめていき、人が居なくなると同時に、一店舗、また一店舗と店がなくなっていく。  ついには会社の赤字を回復させることができず、会社は倒産した。  あのまま飲食だけやっていれば良かったんだ。飲食の中で試行錯誤しておけば、ここまで堕ちることはなかったのに……。  後悔しても、人も金も戻ってこない。  一時期は業界内で注目のグループだったのに、こんなにあっさりと吹き飛んでしまうとは。  独り暮らしのボロアパートで、膝を抱えて涙を流す。  一時期は、港区の高層マンションに住んでいた時もあったけど、今はこのボロアパートだ。  貯金ももうすぐ底をつきそう……俺はぼんやりと”死んでもいいなぁ”なんて思い始めた。
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