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俺、ネット掲示板の裏側で元カノの書き込みを知る
その日の夜、久し振りにスマホでネット掲示板を覗いた。
異世界転移してすぐの頃に俺が立てた『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレは、気づいたらpart.16まで進行していた。スレッド一つにつき1000件まで書き込みできるから、もう16000件近くの書き込みがあったことになる。進行早すぎだろ。
『イッチです久し振り
最近忙しくてスレを忘れてた』
『イッチおかえり!
異世界ライフ報告マダー?』
『イッチ様ご降臨キター!』
『幼女を……幼女不足なの幼女お代わりください……ッ』
「……幼女ならべっぴん美少年の彼氏ができてイッチは放置ぎみですよ、と」
素早くフリック入力しながら俺は泣きそうになった。くう、ピナレラちゃん……俺のことお婿しゃんにしてくれるって言ってたべ!? あれ以来まったく俺のモテ期が来ないのだが!?
せっかくなので、俺とピナレラちゃん、ユキりんの三人で撮った写真画像もネット掲示板にアップロードした。
すぐさま嵐のようなレスが付き始める。
『幼女でも女か
顔の良い方になびいたんだな』
『イッチ様と美少年良きでふ
薄い本出したいデュフフフ』
『それなら幼女と美少年のやつ
薄い本なのに分厚くなりそうだな……』
『おいやめろ
うちの子たちを汚したら許しませんよ!?』
相変わらずの住人たちだ。おのれクソどもめ。ネット掲示板の様式美というやつだ。
俺が不在の間、スレに新しい情報がなかったか住人たちに確認してみた。
するとクソレス八、有用レス二に紛れて俺の個人的なことを聞き出そうとしてくる奴がいた。同じIDの人物だ。
掲示板に不慣れなのが丸わかりの文章で、元カノのことをやたらと聞いてくる。
ははあ、こりゃ辞めた東京の会社関係者かなと察しがついた。だが具体的に誰かまではわからなかった。
こんな書き込みだ。
『週刊誌には元カノさんと別れたのが退職の理由と書かれてましたが、復縁する気はないのでしょうか?』
「……チッ。余計なこと思い出させるんじゃない」
思わず舌打ちした。ようやく吹っ切ったのに、わざわざ思い出させるんじゃねえよ!
『元カノ? いやあ~異世界に来てショックなこと立て続けに経験して、顔も声も記憶から吹っ飛んじゃったんですよね!』
『もうスマホの連絡先もブロックしちまいましたし。
復縁とかちょっと考えられないですね……』
『今、俺には養わなきゃいけない子たちがいるんで』
ピナレラちゃんとユキりん、俺の三人で撮った別の写真もアップロードしておいた。
もう過去の女なぞ入り込む隙間はねえんだよ!
ピコン!
スマホが鳴った。お、後輩鈴木からだ。
珍しく送信時刻が今のスマホの表示時刻と一致している。日本との通信も時間がズレたり正しいままだったり、次元を越えるとよくわからんな……
『スレに元カノのこと書き込んだの、元カノさんですからw』
「……は?」
『最近よく会社のカフェスペースで一緒にコーヒー飲んでるんス』
『俺、元カノさんに掲示板の書き込み指南してやってるんですよー』
『ハハハこの女頭おめでたすぎでしょ、おっかしいったらーwwwwwwwwww(ばくしょう)』
「……鈴木、お前も相変わらずだなあ……」
『……一応その後も報告頼む
お前は本当に何やらかすかわからない後輩だよ……(あせ)』
息をするように他人をdisる。俺はこいつのこういう性癖を最後まで矯正できなかったなあと。
ただ普通の常識を持った社会人なら遠慮する場面でも、空気を読まずに突っ込みを平気で入れられる男だ。その点は営業の中でも交渉向きだった。なので俺が部下として受け持ったんだ。
『イッチ、元カノってどんな子だったのー?』
ネット掲示板に新たな書き込みがあった。
一瞬、ほんとチラッとだけ俺の中に残酷な気持ちがよぎる。
元カノの話をするなら仕事の企画をパクった八十神に触れないわけにはいかない。
どうせ日本には戻れそうもない。ならネット掲示板に全部暴露しても……
後輩鈴木からの情報によると、俺が東京の総合商社を辞めることになった経緯には社内で情報統制が敷かれたそうな。
『仕事で失敗して彼女にも振られて退職。その後は東北もなか村に帰省して高齢の祖母の介護をしている』とやや事実を脚色した説明がされたという。別にばあちゃんは怪我も病気もしてないが。
週刊誌にはもなか村の消失事件と併せて俺の特集も組まれたそうだが、これ以上の詳しい情報は流出していない。
……まあさっき見たテレビ特集と同じだ。もなか村の住民水増し偽装に関わってる国のお偉いさんが止めたんだろとは村長も言っていた。
「スレに書いたら調査好きが元カノも八十神も調べ上げちまうよな……。それされると会社にも迷惑かけちまうし」
全部ゲロったらスッキリはするだろうが、世話になった元勤め先に迷惑かけるのは本意ではない。
それに過去の女をいつまでも引き摺るのもダサい。
まあ、このくらいならいいかと差し障りのない書き込みをすることにした。
『付き合ってるときはとても楽しかったです
良い思い出ばかりでしたね』
『食の好みだけは合わなかったですけど
彼女は外食好きで俺は自炊好き』
証拠、と俺が先日晩飯に作った鮎飯や煮浸し、それに川原で焼いた川魚や焼きおにぎり、芋煮の写真を載せた。
ピナレラちゃんやユキりんが美味そうにもぐもぐしてるベストショットのやつ。
『美味しそう!
イッチ様結婚して!』
『嫁に来いイッチ
この飯作れるなら男でもいい』
『鮎被り過ぎです、マイナス三十点ですよ』
相変わらず掲示板の住人どもは好き勝手言いやがる。
あとマイナス三十点て書き込みした元カノ! ID同じだからバレバレだ。お前マジでほんとさあ……本当に……くそ!
とりあえず嫁にはいきません、むしろ嫁が来い!
その後、鈴木からは元カノの書き込みをまとめた画像が送られてきた。
「いやいやいや。そんなん縁起悪いだろ、見たくもない。保存するならお前がやっとけ!」
ピコン!
『了解っすー(りょうかい)』
画像は速攻でメッセージアプリのトークルームから削除した。
もう俺の人生にあの女は要らない。異世界でべっぴん綺麗な嫁っ子さ見つけるって決めたべな!
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