その頃、日本では~side元カノ、ネット掲示板への書き込み

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その頃、日本では~side元カノ、ネット掲示板への書き込み

 結局、霊能者の叔母の力でもどうにもならず私は週末を無駄に過ごして東京に戻ってきた。 「ユウキ君、ネット掲示板に書き込みしてるっていうけど……どうしたらいいのかしら」  ネット掲示板など見たことも使ったこともなかったので、探し方がわからない。  カフェスペースでの休憩中、スマホを見ながら溜め息をついていると。 「あれ、野口先輩じゃないスか。どうしたんです、浮かない顔して。美人が台無しですよ?」  ユウキ君が面倒を見ていた後輩の鈴木君が声をかけてきた。  私はこの余計な口を聞く後輩君が好きではない。会えば毎回イラッとさせることを言ってくるからだ。  だけどできるだけ態度には出さないよう努力していた。 「あのね。ユウキ君が大変なことになってるって、帰省して叔母に週刊誌を見せられて私、初めて知って……」 「え!? 今さらですよ、情報遅すぎません!?」  ちょっと失礼に感じるほど驚かれた。 「……もう別れた人のことだったから。それに私、テレビあまり見ないし、週刊誌も買ったことなかったもの」  俗なものはあまり好きじゃない。 「まあ別れた相手なんてかんで捨てたティッシュみたいなもんスもんね。わざわざ拾い直すとか気持ち悪いスもんね」 「………………」  私はユウキ君と再構築したかったからイラッときたけど、笑顔を保って逆に鈴木君に聞いてみることにした。 「週刊誌に書かれてたネット掲示板って、あれどうやって見たらいいかわかる?」 「野口先輩、そういうの見ない人でしたか?」 「ええ。話だけは聞いたことあるのだけど」  すると鈴木君はその場でネット掲示板の見方や使い方を簡単に教えてくれた。  閲覧用のアプリをダウンロードして『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレを登録するところまでやってもらえた。 「ほら、このイッチと名乗ってるのが御米田先輩です」 「ここに書き込んだら、ユウキ君と会話できるの?」 「野口先輩だって言わないほうがいいですね。匿名掲示板で身バレすると厄介ですから」  それから数日、私はユウキ君が立てたネット掲示板のスレッドを追い続けた。  ユウキ君の書き込みは名前欄に『1』とあるから追いやすい。他の人たちは彼をイッチと呼んでいる。  汚い言葉の書き込みが多くてげんなりしたけど、イッチユウキ君の書き込みは私と付き合ってたときの彼の文章とほとんど同じで和んだわ。  彼、簡潔に書いてるように見せて理屈っぽい性格が出るようで、ちょっと回りくどい書き方するのよね。  スマホを持って社内のカフェスペースに行くと、また例の鈴木君に会った。  あちらも私を見つけて、相変わらずの何を考えてるかわからない顔で寄ってくる。 「どうです、野口先輩。掲示板の見方に慣れましたか?」 「ええ。ようやく最新のスレッドにたどり着いたところ」 「今のところ毎週新しい板立ってますからね。イッチ先輩を追うのも大変でしょ。先輩、何か書き込みしてみたらどうですか?」 「えっ。で、でも」 「大丈夫ですって。だってユウキ先輩のこと気になってるんでしょ? 捨てた元カレだけどやっぱ惜しくなりません?」 「……そうね」  悔しいけど鈴木君の言う通りだ。  私は見た目が良いし、男の人からモテるタイプだ。今も社内外からアプローチを受けていて悩んでいるところ。  ……でもユウキ君や八十神先輩ほどのクラスとなると、なかなかいないのよね……  この間なんて一緒に銀座を歩いていて、私を車道側で歩かせて平気な顔してる男がいてビックリしたわ。ユウキ君はもちろん八十神先輩だって、さりげなく私を車道から遠ざけてくれてたのに。  それからコーヒーを飲む間、そのままカフェスペースで鈴木君の監督のもとネット掲示板に書き込みをいくつか行ってみた。  ちょっと嫌だったけど鈴木君とスマホのメッセージアプリのフレンドにもなった。今後も書き込みの仕方や内容のアドバイスをしてくれるようだ。  まず一番初めに私が書き込んだのはこんな内容だった。 『週刊誌には元カノさんと別れたのが退職の理由と書かれてましたが、復縁する気はないのでしょうか?』  返信は翌日の夜に付いた。  名前欄には『1』。間違いなくイッチユウキ君だ。 『元カノ? いやあ~異世界に来てショックなこと立て続けに経験して、顔も声も記憶から吹っ飛んじゃったんですよね!』 『もうスマホの連絡先もブロックしちまいましたし。復縁とかちょっと考えられないですね……』  何気なさを装って私はまたネット掲示板に書き込んだ。  彼女に未練はないのか、本当にやり直したい気持ちはないのかなど。  けれどイッチユウキ君の回答はいつも同じだった。 『今、俺には養わなきゃいけない子たちがいるんで』 「ユウキ君。どうして……」  その後、私は何人か新しい男性とお付き合いしたのだけど、やっぱりユウキ君以上の人は一人もいなかった。  もう認めないわけにはいかなかった。  ――私は最高の男を捨ててしまったのだ。 「惜しいことをしたわ。本当にもう復縁は無理なのかしら。異世界から戻ってきたりはしない……?」  毎日、ネット掲示板を覗くのが習慣になってしまった。  イッチユウキ君は数日から一週間に一度ほどの頻度で書き込みしている。 『異世界最高です。このままこっちに骨を埋めることになっても本望!』  嫌よイヤ、帰ってきてユウキ君……!
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