俺、王様の初恋を知る1

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俺、王様の初恋を知る1

 最近の俺は寝る前、男爵から借りた貴族名鑑を読み込むのが習慣になっている。  冒頭にこの国の王家、つまりばあちゃんたちアケロニア王国の王族の概略が年表付きで記されている。  元々は他国から移住してきた勇者の末裔だそうだ。おおお、一気にファンタジー感アップ!  最初は前王朝から伯爵の位を授けられている。王家が堕落した後は勇者として前王家を討ち、新王朝を立てたそうな。それが俺たちのご先祖さまらしい……   * * *  夜、俺はたまに王様の夢を見る。  どうも夢の世界を通じて過去の時代に生きる俺と、未来に生きる王様の精神世界がリンクしてるらしい。  思えば夢の中で王様と面と向かって会話できたのは、チート大剣を貰った最初のみだ。  大剣に付いてる三つの魔石も一つ使ってしまって残機二。補充、補充してけれ王様ー!  王様の幼年期から少年期にかけてはあまり面白くない。  アケロニア王国の王家に生まれて、王子様として何不自由ない生活。勝ち気で美しい母に優しく穏やかな父、そして善政を敷く祖父王のもと優秀な王子として育つ。  黒髪黒目はアケロニア王家の特徴だ。髪は育ちがいいから手入れされてツヤツヤだし、頬っぺたも血色がいい。顔立ちも端正に整ってるから子供の頃からむちゃくちゃ貴族の女の子たちにモテている。  身体も丈夫だし、十代に入ると剣も体術も習ってぐんぐん背が伸びていく。  特筆すべきはステータスの能力値の高さだ。すべての項目で平均値を超えている。全方向に優秀な出来過ぎ君だ。  あーはいはい恵まれてますね良かったですねーという感じ。  それだけ優れた資質と能力を持つのに、性格は穏やかで思慮深い。  側近候補は何人も集まってきてるし、お妃様候補の釣り書きも国内外から机に山になるほど送られてきている。  次世代の国王として家族も臣下も国民も、皆が期待していたようだ。  順風満帆の王様の人生に変化が起きるのは、王都の学園に入学した年からだ。日本でいうなら高校生から。  通っていた学園に魔物が急襲して王様を含めた多数の生徒たちが危険に見舞われた。  中でも巨大なドラゴンは学園を守る騎士たちも手を焼くほど強大だった。  そのドラゴンを倒したのが王様なんだろって?  いいや、そのとき王様はまだペカペカの高等部一年。初めて間近で見るドラゴンに足がすくんで一歩も動けなかった。  というより護衛たちに守られて剣も握らせてもらえなかったようだ。  学園の危機を救ったのは一人の生徒だった。  奇しくも王様と同じ年に入学した同級生だ。  その子は皆が見てる前でタタタターッと校舎の壁を素早く登って(垂直に!)、屋上から魔力で創り出した何十本もの魔法剣で魔物たちを攻撃し仕留めた。  最後にボスのドラゴン相手に、ひときわ光を反射する魔法剣を屋上から振り下ろして真っ二つ。  ……ほんの数分で片を付けてしまった。  あまりにも鮮やかあっさり倒しちまったもんだから、皆も王様も呆気に取られていた。夢として見ている俺もだ。  校庭はドラゴンの血で池になっている。  誰もが息を飲む中、その子が王様のほうを向いた。そしてニコッと笑いかけてきた。 『!?』  ドクン、と王様の心臓が大きく跳ねた。  同じ光景を見てる俺のハートもだ。  凛とした綺麗系のものすごい可愛い子だ。うっわ、そうかなと思ってたけど王様の好み、俺と同じか!  まだかなり小柄で、学園のブレザーの制服を着てなかったら小六ぐらいと勘違いしたかも。 「君、だいじょう……」  大丈夫か、と言いかけて上げかけた手が空振った。王様の見ている前で綺麗なその子は魔力を使いすぎて倒れてしまったのだ。  すぐ近くにいた別の生徒が慌てて駆け寄っている。 「………………」  走っていった男子生徒の後ろ姿は、王様と同じ黒髪。王家の親戚なのだ。  ズキっと胸が痛くなった。この痛みは王様の痛みだ。  あの子が笑いかけたのは王様にじゃない。いまあの子に駆け寄って小柄な身体を支えた、親戚の男子生徒にだったと気づいたからだ。  その後すぐ側近の生徒からの報告があった。  ドラゴンを倒したのは、王様と同い年の親戚の幼馴染みだそうだ。家族ぐるみで仲が良く、まだ主従関係や婚約なども結んでいないらしい。  ただ魔力の強い家の子なので自発的に護衛を買って出ているそうだ。  つまりあの子が真っ先にドラゴンに向かって倒したのは、自分の幼馴染みのため。  結果的にそうなったとはいえ、――王様を守るためじゃなかった。  とはいえその子が王様と親戚、二人の王族を守ったのは間違いない。  王家はドラゴンを倒した子にドラゴンスレイヤー、〝竜殺し〟の称号を授けた。若き英雄の誕生だ。  まだ子供かってくらい小柄で、しかも誰もが振り返るようなべっぴん綺麗な子が数多の騎士や冒険者たちにも滅多にいない〝竜殺し〟となったのだ。王都はもう祭りだった。  まだ王子だった王様は、それから何度も何度もあの子の活躍する姿や笑顔を思い返していたようだ。  強さも、美しさも、両方にハートを撃ち抜かれちまったんだな。
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