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俺、王様の初恋を知る2
夢の中でシーンが変わる。
今日の王様は……ブレザー姿ということはまだ学生時代だ。
俺と同じ黒髪黒目の端正な顔立ちの彼は、初めて夢で会ったときのような精悍な感じはまだあまりない。若い、というか頬のラインとかまだ幼い感じ。
そんな王様は、切ない顔で少し離れた場所から誰かを見つめている。
――むちゃくちゃ可愛い子だ。そう、あのドラゴンを倒した竜殺しの子だ。
おお……何度見ても俺の好みドンピシャの綺麗系のべっぴんしゃんだべ。最初に見たときより少し背が伸びてるがまだまだ小柄だな。
お目当ての子の隣には、王様とよく似た黒髪黒目の男がいる。幼馴染みだという王様の親戚だ。
黒縁の眼鏡をかけてるので今後こっちは親戚のメガネ君と呼ぼう。
……うぐ。どうやら王様の好きな子は王様ではないこの男のことが好きなようだ。片想いか……辛かっぺなあ……
王子様の身分を傘に着て交際を迫ってもいいだろうに。王様は権力を使って人を思い通りにするタイプじゃないようだ。そういうのは王族の仕事のときだけ。
王様はしょっちゅう隠れたところから好きな子を見つめては溜め息をついている。
しまいには思いの丈をノートにまとめ始めた。びっしり好きな子情報を書き記したノートがどんどん溜まって積み重なっていく。
夜、王宮の自室であの子を思い出したときには……おっとこれはプライバシーの侵害だな。あえて見ぬ振り。
王様にも青春があったんだべなと思って俺は甘酸っぱい夢にニヤニヤしていた。
* * *
朝起きて、見た夢の内容は一応記録しておくことにした。
異世界転移してからずっとノートに日記を付けていたので今日の日付と一緒に。
「これって王様のプライバシーだだ漏れなんだが……もしかしなくても、俺側の人生も王様にだだ漏れか……?」
最初に夢を渡って会ったとき、王様は俺が異世界転移してきてからの出来事を見ていた。多分間違いない。
「王様の青春がなんだってんだ? いったいどんな意味がある……?」
寝起きで乱れた頭を掻きながら呟いた。
だが夢という映像を見たことで見当はついた。
「ユキりんゆかりの人物だべ?」
髪と目の色は違ったが、王様の好きな子は顔がよく似ていた。麗し綺麗系の美人さんだ。
ということはユキりんの実家リースト家ゆかりの人物だ。王様の親戚の幼馴染みというぐらいだから本家筋のほうだろう。
「本気で好きになっちゃったんだな。羨ましいべなあ……」
俺はそういう、心の底から誰かに恋した経験は二十八年の人生でまだ一度もない。
わりとモテるほうだとは思うがいつも女性から告白されて、巨乳ならまあいいかって付き合うだけだった。
……もちろん交際中は相手に誠実に付き合ってきたつもりだ。
机に置きっぱなしにしていた、男爵から借りた貴族名鑑を開く。
――リースト一族。本家は伯爵家。ユキりんの実家はその分家の男爵家。
祖先は魔王。勇者の血筋であるアケロニア王族とは古い時代からの因縁があるらしい。
魔王と勇者。ファンタジーなら定番の対戦相手だが今どきはバリエーションも多いみたいだからなあ。俺たちのご先祖様は許されぬ悲恋とかそっち系なんだろうか? ロマンチックだべ。
このときの俺は呑気なことを考えていた。
後から思い返すと、王様の過去で一番重要な人物を俺は見誤っていた。
王様の初恋の子は確かに綺麗な子だったが、王様にとって大切な人は他にもいた。
好きな子を追うだけだったらその他なんて背景になるはずなのに、ちゃんとはっきり顔を認識していた人物がもう一人いる。
王様の親戚で、王様が好きな子が想いを寄せていた同い年のメガネ君。――王様の恋敵だ。
黒髪と黒目、顔は同じ王族だけあって王様とよく似ている。同年代より背も高く体格も良い王様と比べると、こちらは中肉中背の平均くらい。
王様とはまた違った育ちの良さそうな、上品な顔立ちと雰囲気の男子生徒だった。
「王様の好きな子とメガネ君は別に付き合ってない。ただの幼馴染みで友達。……と思ってるのはメガネ君だけ」
俺はノートに彼ら三人の関係性を図式した。
王様→竜殺しのべっぴん→メガネ君
見事に一方通行だ。三角関係にすらなってね。
しかも王様にとって腹立たしいことに。
「メガネ君は王様の恋を応援してくれてる。……すげえな、ど天然にもほどがある」
幼馴染みが薔薇のジャムが好きとか、そういうありがたい情報を教えてくれるわけだ。
恋敵から送られる塩に悔しがりながらも、王様はしょっちゅうメガネ君の家まで押しかけている。
メガネ君はそんな王様が面白いようで、からかいながら幼馴染み情報を提供している。「早く告白しろよ」とか言って。
これはこれで青春だべな。
王様とメガネ君は親戚であり友達でもあったようだ。
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