俺、次元の狭間で神様に会う?

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俺、次元の狭間で神様に会う?

「うお、真っ暗だし」  温泉を出て、最後に役場の建物と敷地内の電灯のスイッチを切れば今日の仕事はもう終わり。  まだ五月だ。先月まで雪が残ってたようなこんな地方の田舎の夜は冷える。  熱かった温泉で汗ばむ首筋をぬぐいながら門を出てばあちゃんちに帰ろうとしたところ、やたらと周囲が明るいことに気づいた。  もなか村にも街灯はあるが、ぽつぽつまばらにある程度で道路が辛うじて見える程度しかない。なのにナイター設備のある公園ぐらい辺りが明るい。 「? どこかスイッチ切り忘れたか?」  配電盤は建物の中だ。くそ、面倒だなと思いながらも役場の中に戻ろうとしたところ。 「はああああ!?」  役場の建物前の駐車場や、その先の畑や田んぼ、更に遠くにある山々までが、白く光る幾何学模様のネットで覆われていた。 「何だこれ、レーザー光みたいな……? い、いや、俺の身体にも変な模様があるー!?」  古代エジプトやギリシャの遺跡にあるような幾何学模様だ。小さな円を連ねて網目になった模様がもなか村を覆い尽くしている。  そこから周りの景色が消えた。真っ暗な空間にポーンと放り出されたような覚束ない感覚に大声をあげそうになる。  なんだこれ。千葉のアミューズメントパークのアトラクションより怖い。  落ちるのか、いつ落ちるのかと戦々恐々としてると、暗い空間の遠くにぼんやりした光の塊が見えてきた。  ドーム状の部屋のようなものが光の中にある。人の姿があった。三人だ。全員、聖職者風の白い聖衣(ローブ)をまとっている。  一人は黒髪の優しげな青年。  二人目はコスプレみたいな青みがかった綺麗な長い銀髪の小柄な美少女。  三人目はミルクティ色の癖っ毛の童顔の男。  全員とにかく顔がいい。日本じゃお目にかかったことがないくらい。実物を見てなかったら写真アプリで加工でもしたんじゃないかってほど。  彼らの周りには虹色キラキラに輝く光の粒が妖精の燐光のように舞い踊っている。  見たところ小さなテーブルを囲んでお茶を楽しんでいたようだ。 「え……っ。なぜ次元の狭間に人間が?」  黒髪の青年が俺を見つけて驚いたように立ち上がった。 「始末するか?」 「ヒィッ!?」  美少女が軽く手を上げると、俺の周りに何百、いや何千もの透明で夜空色の輝きを帯びた剣の切先が向けられた。  ひいぃ、怖い、この美少女めちゃくちゃ怖い! 「彼は異世界からの来訪者……いや待て、少し様子がおかしい」  ミルクティ色の癖毛男子が首を傾げている。  俺はこの混乱から抜け出したくて必死で暗い空間の中を泳いだ。謎の三人の近くまで行くと黒髪の青年が手を出し出してくれたので遠慮なく掴んで部屋に入れてもらう。 「じ、地面だ……足が付く!」  だが一息つけたものの、腰が抜けてしまってそのまま俺は三人の足元に座り込んでしまった。  三人は虹色の光を帯びながら俺を様々な表情で見下ろしている。  あれ? これまさか俺、異世界転生的な神様との出会いとかいうやつ?  と気づいたのは、似たようなシーンを異世界ものの漫画で山ほど読んでいたからだ。  非日常的な体験、光る人間離れした存在との出会い。間違いない、これは……! 「ち、チート! チート能力欲しいです! 神様がたお願いします!」  言ったもん勝ちとばかりに訴えると、三人はかわいそうなものを見る目で俺を見つめてきた。 「図々しいな。やはり始末しておくか?」 「アッすいません、生意気言ってマジすいません!」  再び青銀の髪の美少女が無数の剣を宙に浮かせたので、俺は秒で土下座した。ヤバい。このお人は怒らせちゃいけない気がする! 「あ、あの。ここはどこで、あなたがたはどなたでしょうか? 俺は御米田ユウキといいます」 「ここは世界と世界を繋ぐ次元の狭間。誰も使ってなかったから我らのお茶会スペースと倉庫代わりに使っていてね」 「は、はあ……」  黒い髪の青年が教えてくれるが、いまいちよくわからない。しかも名前は誰も教えてくれないときた。 「どこから来たの? オリオン? シリウス? 最近だとアルクトゥルスからも多いみたいだけど」  どこだそれはと思ったが、星の名前だ。小学校の頃、星座盤を持って従兄弟と一緒に夜空を見た記憶が思い出される。  オリオンは夜空で見つけやすい三連星のある星座。  シリウスは夜空の中でも特に明るく青く光ってる星。  アルクトゥルスもシリウスの次の次くらいに明るいオレンジの星だったはず。  なら俺がいた世界は。 「天の川銀河の太陽系、地球という惑星から来ました!」 「地球」 「ああ……」 「あの地球。よりによって地球かあ」  三人は揃って今度は気の毒そうな顔で俺を見てきた。  地球のいったい何が駄目だというんだ?
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