俺、幼女の寝顔に決意した

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俺、幼女の寝顔に決意した

 夕食後、食器の片付けは俺が担当して、その間にばあちゃんはピナレラちゃんと一緒に風呂に入ってもらった。  太陽光発電で一日分の風呂用プラスアルファの温水が温まっているから、水が使える今回の異世界転移でもそのまま家の風呂が入れるわけだ。  ただプロパンガスの残量が心許なかったので、念のためガス消費の激しいシャワーは使わず、お湯は風呂の湯船に貯めた分を使うことにした。  男爵から貰った魔石で風呂の給湯器も稼働できそうだが、念のためな。念のため。  風呂の湯が冷めないうちに俺も入浴して、上がってきたら居間でピナレラちゃんがばあちゃんの膝枕で眠っていた。  よかった、ばあちゃんにもすっかり懐いたようだ。安心しきった顔ですーすー寝息をたてている。めんこいなや。 「今日は元気にはしゃいでたがらねえ」  優しくピナレラちゃんのキャラメル色の髪を撫で撫でしながら、ばあちゃんが微笑んでいる。  いいなあ、俺も小学校に上がるまではああしてばあちゃんのお膝に懐いてたっけなあ。  ばあちゃんとピナレラちゃん、正直どっちも羨ましいぞ。 「あ、あのさ。ばあちゃん。俺ちょっと考えてみたんだけど」  動けないばあちゃんに変わって、お茶を入れる。いつもちゃぶ台に置いて使っている保温付きの電気ポットだ。電源コードは取り外して、代わりに男爵から貰ってきた小さな魔石を側面に養生テープで貼り付けてある。……問題なくスイッチが入りお湯が沸く。異世界すごすぎだろ。こんな雑な扱いで使えるのか魔石。  もう夜なのでカフェイン少なめの番茶を飲みながら、俺は切り出した。 「うん。どがんした?」 「……もし、このまま日本に戻れなかったら。俺、ピナレラちゃんと……」  俺は今日一日考えてたことを、頭の中でまとめながらばあちゃんに話した。  そう、このまま日本に帰れないこと前提で、もうど田舎村に帰化してしまおうという話だ。 「そうかあ。もう日本に未練はないのけ?」 「なくはないけど。でもこのままピナレラちゃんを引き取って、この子が大人になるまで面倒見る人生もいいんじゃねがって」  それからいくつか、互いの意見を確認しあった。  ばあちゃんが気にしてるのは息子二人のことぐらいだそうだ。俺の親父夫婦と、叔父さんと従兄弟。 「あ。そうだ忘れてた。スマホが元の世界と繋がってるみたいなんだあ。ばあちゃんもスマホ持ってるべ? 親父や叔父ちゃんにメッセージ送ってみてけろ」 「ん、わがった」  繋がったり、繋がらなかったりなことも教えておいた。だがこれで少なくとも俺たちのスマホが壊れるまでは元の世界に残してきた家族と、断続的ながら連絡が取れる。  村長が言ってたが、村役場の金庫の中に最新で新品のスマホとタブレット端末が未開封のまま数台ずつ保管されているそうだ。村の予算の使いきりに毎年、年度末の帳尻合わせで購入していたものだそうで。  俺たちのスマホが壊れてもまだ予備があると思えば心強い。スマホもタブレットもどんどん古くなっていくが、大切に使えばメールとメッセージアプリ利用だけなら十年ぐらい保つんじゃないか?  俺がど田舎村の帰化を考えたのは、やはりこのスマホが繋がることと、予備の存在を知ったことが大きい。
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