俺、王様からスキルを貰う

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俺、王様からスキルを貰う

 アッ、声も出るようになってる!? 「き、気づいたらここにいたんだ。俺は不審者じゃない」 「わかっている。だが、次に夢を歩くときは〝服を着た自分〟をイメージしておくべきだろう」 「え?」  俺は咄嗟に下を見た。肌色だ。二つのビーチクに鍛えた腹筋。……服どころかパンツも靴下も何もない。  ちょうど夜明けの陽光が窓からカーテンのように差し込んで、俺の下半身を照らす。ヤバいわ。これはヤバい、掲示板の連中の言葉じゃないがおまわりさんを呼ばれてしまう! 「わー!?」 「わめくな。これでも着ていろ」  呆れた王様が黒い軍服のジャケットを脱いで投げて寄越した。  ほんのりあたたかい王様の体温……やだ……こんなイケメンムーブかまされたら惚れてまうっぺや……ってそんなわけあるか!  俺は全裸モードにパニックに陥って、脳内で普段あまりやらないノリツッコミで思考が暴走していた。  だがジャケットはありがたく頂戴した。長めの上着を慌てて羽織ると、ギリギリ息子は隠れた。ほんとギリギリ。  ちょっとでも動くと見えてしまいそうなので俺は諦めて部屋の床に座った。う、高そうな絨毯に裸の尻のまま座る罪悪感……俺は無言で体育座りから正座に切り替えた。なんとなく気分の問題で。 「くっ、はは! 落ち着いたか?」 「え、ええ。おかげさまで」  すると玉座の王様は正座する俺を見下ろす形になった。長い足を組んで指を顎に当てながら、面白そうに俺を見ている。  見た感じ俺より数歳年下だが、黒い目の眼光が強めで視線にはかなりの圧を感じた。これが王者の覇気というやつか。 「〝チート〟とはなんだ? オコメダ・ユウキよ」 「へ?」 「神人の方々の前で叫んでいただろう。『チートをください!』と」 「あ、それはですね」  俺は王様にチートの概念を説明した。元は反則やずる、ごまかしという意味だが、今では『ヤベェくらい圧倒的で最強無敵の無双状態』になること、あるいはそのような状態をもたらすスキルのことだと。 「……お前、よくあの方々にそのような要求ができたな?」 「青銀の髪の美少女には剣で串刺しにされそうになりました! いやーヤバかったです!」 「……悪運の強い男だ」  王様の顔色が悪くなる。だが深く溜め息をついて組んでいた脚を戻し、玉座に座り直して改めて俺を見下ろした。 「その〝チート〟級とはいかずとも、スキルなら私が伝授してやろう。オコメダ・ユウキ、ステータスを開示せよ」 「!?」  俺と王様の間に半透明で縦長のボードが現れた。こ、これは……異世界ものにお約束のステータスボードじゃないか!  き、「キタ――(゚∀゚)――!!」!!  俺の脳裏によくネット掲示板で見かける喜びの顔文字が鮮烈に浮かんだ。  こ、この世界、お約束中のお約束、『ステータスオープン!』のある異世界だったか! 名前 御米田ユウキ(オコメダ・ユウキ) 所属(出自) 日本国○○県もなか郡もなか村 称号・職業 元会社員(総合商社営業) 表計算ソフト職人 もなか村次期村長候補 保有スキル 普通自動車免許 第一種 簿記 2級 実用英語技能検定 1級 TOEIC 880点 体力 7 魔力 5 知力 7 人間性 7 人間関係 7 幸運 5 「見方はわかるか? 能力値は十段階評価で己のポテンシャルを表している。さすがというべきか、すべて平均値の5以上持っておるな」 「すごいんですか? これって」 「もちろん。一番低いのは1。もっとも優れた能力は10になる。この数値ならお前は典型的なバランス型と言えよう」  能力値欄の増えた履歴書みたいだった。  しかし『表計算ソフト職人』とはいったい……俺は普通に業務で表計算ソフトを使ってただけなんだが。 「このタイプは独学でも大抵のことが学べる。目が覚めたら、ど田舎村で領主から魔法書や魔術書を借りると良いだろう」  確かに俺は独学タイプだ。簿記も英検もTOEICもぜんぶテキストやネット学習だけで取得している。 「基本はやはり、鑑定スキルだろう。鑑定スキルには主に三種類ある。人物鑑定、物品鑑定、魔力鑑定。すべての鑑定スキルを使いこなす総合鑑定もある」 「総合鑑定一択でお願いします!」 「……私が伝授できるのは人物鑑定のみだ。この世界で鑑定は非常に習得難易度の高いスキルなのだ。あまり期待せぬほうが良いだろう」 「そ、そうですか」 「スキルランクは初級を与える。適性があれば使い続けることで中級へとランクアップするはずだ。それ以上は運次第だな」 「ありがとうございます」  初級か。これはレベル1から順に上げていくやつだな。俺の脳裏に、ファンタジー系RPGゲームの木の棒と普通の布の服を装備した〝始まりの村〟の主人公ぽい自分のイメージが浮かんだ。  まずはスライムを倒して1ゴールドゲットからだな。 「見たところ、お前は防具作成の才があるようだ。利き手は右か?」 「はい、右利きです」 「ならば反対の左手に小さな盾をイメージせよ。このように」  王様は玉座から立ち上がると左手を掲げて見本を見せてくれた。  その左手が真紅のモヤ、魔力らしきものにボワっと包まれる。魔力はそのまま見る見るうちに丸型で中サイズの黒光りする鉄鍋、いや盾に代わり、左腕に装着されていた。手首側には小型サイズの剣の刃が飛び出ている。 「これはバックラーという盾と剣を備えた攻守両用の防具だ。大きさや形はイメージ次第で好きに変えられる。自分の扱いやすいよう試してみることだ」  言って王様は丸型の盾を、縦に長方形の大型サイズに変更した。先端にあった小さな剣は槍の刃ほど長く伸びている。  そりゃもうバックラーとは言わないだろって改変っぷりだ。
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